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「800字文学館」

レーティッシュ鉄道に乗ろう

志村 良知

 今年8月、スイスの鉄道で脱線事故があった。事故現場は有名なランドヴァッサー橋付近で、まだ人里近いが線路へのアプローチ道路は無く、救助は全てヘリコプターで行われたと伝えられた。事故があったのはスイス東部に山岳路線網を持つレーティッシュ鉄道である。
 アルプスなどの山岳鉄道は、アブト式のように歯型をしたラックレールを使って急斜面を登るものが多い。しかし、レーティッシュ鉄道はこのラックレールを使わず、できるだけ等高線に沿って、レールと車輪の摩擦だけの粘着運転で急斜面を行く。さらにスイッチバックも嫌って180度折り返しやループを多用し、トンネルと鉄橋が連続する強引な線路敷設で、全路線とも電気機関車が10両余りの客車や貨車を引く大編成の列車で運行している。
 レーティッシュ鉄道はツェルマット―サンモリッツ間の観光列車『氷河特急』路線でサンモリッツ寄り東半分を受け持っている。
 ランドヴァッサー橋を渡ると列車はアルブラ峠にかかる。ここは線路敷設そのものが世界遺産になっていて、その線路はこうなっていると図を見せられてもそれが鉄道とは信じ難いものである。アルブラ峠の道路から見ていると、トンネルに消えた列車が次にどこから現れ、どっちに行くかも分からない面白さがある。

 サンモリッツからイタリアに向かうべルリナ線は景色が素晴らしい。粘着運転のスイス鉄道最高地点のベルニナ峠2253mを越えるために、最大斜度70パーミル(1000m行って70m登る)、最小曲率半径45mの道路峠並みの線路を走る。車窓からは4千m峰や雄大な氷河が見え、180度ターンを4回連続で繰り返すつづら折れと360度のオープン・ループ橋が名物である。狭い谷あいの村では線路専用スペースが取れず、機関車が牽引する大編成列車が道路に乱入して車に混じって走る「路面汽車」になる。木の香清しい木材満載の貨車を連結していることもあり、なかなか凄い光景である。

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