作品の閲覧

「800字文学館」

宇宙飛行士は英雄か

稲宮 健一

 宇宙博2014を幕張メッセで見た。世界で最初に飛翔体が宇宙を周回できる理論を示したロシアのツォルコフスキーから始まり、国際宇宙ステーション(ISS)に至る宇宙開発の流れを、実際に宇宙から帰還した宇宙船など多彩な展示物によって示した。この博覧会ではISSが最先端で、それを支える宇宙飛行士関連を大きく扱っていた。

 戦前のツォルコフスキー、ドイツのオバースは将来の宇宙旅行の構想を夢見て活動した。戦争中はフォン・ブラウンのV2ロケット、戦後の冷戦時代に米ソが国の威信をかけて熱く競争した。ISSはその最終段階でレーガン、サッチャー、中曽根の肝いりで、西側結束の誇示のため企画された。当時の学会からは、ISSが他の研究費を圧迫すると反対意見も出たが、国家の意思は固く、膨大な予算を費やし現在に至っている。途中で予期せぬソ連の崩壊があったが、今やロシアはISSへの輸送を唯一担当する主要メンバである。

 冷戦時代の宇宙飛行士は地球人の代表として、ガガーリンは、宇宙を見渡したが神はいなかったとか、米国の月面歩行を体験した宇宙飛行士は、宇宙で神を感じ、退役後、宗教家になる人が多かった。しかし、ISSが完成する頃、神秘性はなくなり、体力、知力に優れ、過酷な訓練に耐えれば、誰でも宇宙飛行士になれる。

 西側結束の誇示は達成された今、ISSの使命は無重力の環境下の多数の実験とか、将来火星飛行時の人間の能力の限界の探索などを挙げているが、はたして更なる膨大な資金を注込で、有人宇宙を維持拡大させる合理的説明が可能だろうか。一人の宇宙飛行士の費用で多くの地上の宇宙技術者が誕生させられる。

 宇宙博には無人火星探査機キュリオシティの展示もあった。何も人間が行かなくても、技術の粋を凝らし、遠隔で臨場感溢れる体験が可能な世の中である。無人の「はやぶさ」や、高性能な光学や、電波の望遠鏡に資金を投入する方が遥かに宇宙探査に大きな成果が期待できる。

(二〇一四・九・二五)

ISS(International Space Station)

作品の一覧へ戻る

作品の閲覧