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「800字文学館」

コンフリー考

大月 和彦

 コンフリーが、信州戸隠に住む姉の畑一帯に蔓延している。
 原産地イギリスのハーブの一種。和名はヒレハリソウ(鰭玻璃草)、ムラサキ科の多年草で、高さ30~100㎝になる植物だ。

 栄養価が高いので家畜の飼料として明治時代に移入されたという。昭和40年ごろ、糖尿病、高血圧、動脈硬化などに効く「奇跡の草」とされ、また、健康食品としても一時期ブームになった。
 若い葉はてんぷらやおひたしとて民宿などの食膳に出され、素朴な味が好評だったという。絞り汁やハーブティーとしても飲用され、入浴剤としてももてはやされた。

 事態が一変する。平成16年、有害物質アルカロイドの一種が含まれていて、肝障害を起こす事例が報告されたので、厚生労働省が食品としての販売を禁止した。

 戸隠高原では昭和三〇年代に家畜の飼料植物として移入されたらしく、気候と土地に合ったのか見事に生育し、広がってしまった。
 春、雪が消え、畑の黒い土が現れると、一番先に白っぽい芽が出てくる。地中2、30㎝に張っている根をシャベルで掘り起こそうとするとポキっと折れて一部が地中に残ってしまう。掘り出した根はなかなか枯死しないので焼却する必要がある。
 5、6月、地中に残った根がまた芽を出す、掘り起こす。モグラ叩きが始まるが、シャベルや鍬を使っての重労働なので、この戦いは人間の方が負けてしまう。
 その結果、畑の野菜は日光や栄養が横取りされ痩せ衰える。休耕地で育っていたウド,スイセンなど在来の植物は追い払われてしまった。

 この初夏、若い葉を摘んで、おひたしにして食べてみた。山菜や香草ハーブのような独特の味や香りはない。ホウレンソウに似ているが、ぬめりがある。粗毛があるためいがらっぽく、不味かった。身体に良いといわれても絞り汁など飲む気にならない。
 七月、畑一帯は白とピンクの淡い花を付けたこの外来草で覆い尽くされてしまった。

「奇跡の草」ともてはやされたコンフリ―は、生態系を乱す迷惑な雑草になっている。

(14・9・11)

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