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「800字文学館」

MET(メト)ライブビューイング

川口 ひろ子

 東銀座の東劇で、「METライブビューイング」 モーツァルトのオペラ「コジ・ファン・トゥッテ(女はみんなこうしたもの)」を鑑賞した。
 「METライブビューイング」とは、ニューヨークのメトロポリタン・オペラの最新公演を映画館の大画面で鑑賞するシステムで2006年に発足、現在世界60カ国で上映されている。
 日本上陸は翌年で、以来7年余り、何回か足を運び、慣れてきたせいか、オペラは絶対生演奏派の私も、それなりの鑑賞法を見つけ出し、楽しみが一つ増えた。
 このシステムの最大の魅力は、ニューヨークでたった今生れたばかりの名唱や絢爛豪華な舞台を数日後に鑑賞できること。そして、幕間を利用しての、指揮者や歌手へのインタビューなど、どのようにオペラが創られているかが、非常に解りやすく解説されていることだ。

 主役は2組のカップル。青年たちはフィアンセの貞節を試すために変装し、相手を取り替えて口説く。さて、偽りの恋の顛末は? というお話しで、甘く、切なく、かなり辛辣な恋愛喜劇だ。
 軽快な序曲でいよいよ開幕。指揮は2年間の療養から復帰、車椅子に乗ったジェイムズ・レヴァ インだ。やつれた感じはなく、演奏は、フィナーレまで一気呵成、早めテンポで威勢がよかった。
 若手歌手が6人、歌唱、演技共に完璧とはいえないが、レヴァインの緩急絶妙の指揮棒に乗せられて精一杯勤めていた。
 一方、演出は20年前の再演で、おとなしく、古臭い感性には満足出来なかった。
 あっさり心変わりしたことを「神よ許したまえ」と、オーバーに悩む女性の姿を、皮肉をこめて、今の目線で描きだしてほしかった。オペラは生ものだ。
 保守的なニューヨークの聴衆はこの様な綺麗な舞台を望み、これがメトのスタンダードなのだろう。
 今回の公演、一番の立役者はウイットに富み、毒気もたっぷり含んだモーツァルトの豊麗な音楽を、勢いよく演奏したマエストロ・レヴァインだ。

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