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「800字文学館」

慶州、5月

首藤 静夫

 この5月、韓国に旅行しました。友人二人との気ままな旅です。釜山で車をチャーターして慶州を巡りました。
 現地の人の運転で釜山から30分ほど走ると田園風景が広がってきました。初夏の緑は、日本の南国とそっくりです。
 慶州は釜山から1時間ほど車で北上したところです。古の新羅王国の都として、また新羅滅亡後は古都として栄えました。新羅の歴史は不案内という人が日本では多いようです。仏教伝来や文物・人の往来など、百済との交流を中心に語られることが多いせいでしょうか。
 慶州は山に囲まれた盆地の中にありました。日本の奈良地方、特に西の京や明日香村を彷彿とさせる、静かな佇まいです。それかあらぬか慶州市と奈良市は姉妹都市です。町の生い立ちや歴史上の役割など共通点が多いようです。
 道筋に、文武王、聖徳王、神武王など歴代王の名前が書かれた案内板がありました。あれっ、同じだ! と不思議な感覚になります。
 町には古都の景観をこわす現代建築はありません。屋根は、学校もホテルも給油所もすべて黒瓦です。また、屋根の中央部は低く、両端にいくほど高く反った独特のスタイルです。民家の塀は日本より高いようです。屋根中央部の低さと相俟って、家々が塀の中に沈み込んだ印象を与えます。やはり異国の趣があります。

 仏国寺、石窟庵、大陵苑など世界遺産の名所を見学して、最後に郊外の窯元を訪れました。脇道にそれて、車は石ころの道をノロノロ進みます。着いたのは竹林に囲まれた青磁の窯元でした。現役の窯ですが、塀は一部崩れ、磁器の欠片が落ちています。登り窯もありますが、相当に古いものです。ふと亀井勝一郎の『大和古寺風物詩』の一節を思い出しました。薬師寺の辺りで、崩れかけた土塀に沿って向こうから、古壺を抱えたチマチョゴリの老母がとぼとぼと歩いてくるのに作者が行きあう場面です。
 隣国ゆえの難しさも残る両国ですが、悠久の歴史の中で、深い交流の跡がうかがい知れる旅でした。

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