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「800字文学館」

生めよ殖やせよ海に満ちよ

稲宮 健一

 水産総合研究所(以下水産研)がマグロの養殖に成功したと報じた。あれ、確か、近畿大学のマグロ養殖が有名で、既に養殖方法が完成していると思っていた。そこで、水産研にこの発表の目新しさは何かと聞いてみた。
 近畿大学では人工的に養殖したマグロの親魚の採卵は海面の生簀で行われている。しかし、海面の生簀では水温などの自然条件が変動して、安定的な生育が難しい。これに対して、水産研では陸上の飼育施設で環境を人為的に管理して採卵ができるので、自然条件に左右されない養殖マグロが可能で、将来の増産が期待できる。但し、これに先立つ近畿大学の挑戦は目を見張るものがある。

 同じように、ニホンウナギ仔魚の飼育が可能になったというニュースもあった。人工的に孵化した卵から二百日齢の仔魚(レプトセファルス幼生)を育て、さらにシラスウナギに変態するまで育てることに成功した。これによりウナギ人工種苗の大量生産、完全養殖ウナギの安定供給に目途が立ったとのこと。

 一方、鮭の養殖は一七六二年に越後村上藩の青砥武平治が三面川で産卵の保護と、海に下る幼魚の捕獲禁止により、再び遡上する鮭の増産を実現したことに始まる。現在では北海道を中心に大量の稚魚が放流され、漁獲量が着実に増えている。かつて、南半球には鮭はいなかった。日本の国際協力事業団(JICA)派遣の長澤有晃、白石芳一等の悪戦苦闘の努力で、チリの鮭の養殖技術が確立した。今では世界の鮭の海面養殖による生産量が天然を超えている。

 養殖漁業の普及は食料増産に役立ち喜ばしいが、海面の生簀で養殖すると、餌のため他の魚を大量に使うので汚染を起こしたり、狭い所で育てるので、病害虫の発生と、その対策に薬品の投与など、新たな環境破壊が起きている。鮭の放流のように、自然界で幼魚から成魚まで成育される漁業が望ましい。たとえ、母川回帰でない魚でも、放流で地球全体の漁獲量が増えれば、世界に寄与するのではないか。

(二〇一四・六・十一)

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