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「800字文学館」

雨のソラマチ

内藤 真理子

「お花見をかねて、ソラマチに行ってみない」と姉から誘われた。
 その日は、天気予報では昼間は晴れになっていたが実際には雨。にもかかわらず春休みで東京スカイツリーは子供連れでごった返している。
 ソラマチの、どこにでもあるような商業施設を見るのは諦めて、一階に降りたら、鉄骨構造の部分がむき出しに見えるように、ガラス張りになっている所があった。
 鉄骨と言っても見た目は直径二メートル位の円筒のアルミの棒にみえる。縦や斜めに何本も立っているそれは、軽く柔らかそうな感じだが、六三四mの電波塔の地上に出たばかりの部分で、上からの負荷を考えると、見た目はやわでも強靭なのだろう。
「五重塔の内部のように、心柱で地震の揺れに対応しているんでしょ」そんな言葉が二人の口から出るほど、鉄骨の間に厳かな空間が広がっていた。

 傘をさして外に出ると、雨に煙って上の方は見えない。
 太い筒で組み立てられた塔は、丸みがあって鉄塔のイメージとは程遠い。
 今まで見慣れた東京タワーは、厚みのある平べったい鉄棒を、太いボルトで留めながら、高く組み立てられていたように思う。
 インターネットで見たら、成程スカイツリーは、H鋼ではなく、鋼管を使用し、溶接接合しているとあった。
 又、雪洞のような質感で和の美を表現していると聞いたが、今までは遠くから見て、ただ「そうなのか」と思っただけだった。だが近くで見ると鉄をこんな風に見せるのは、発想も技術も人知を尽くした至難の技であったのだろうとおぼろげながらわかり、きちんと意図を体現した塔の美しさをまさに実感した。

 雨のせいか近くの商店街は閑散としていたが、テレビで宣伝していた、エビが何本もそびえ立っている天丼の写真がでかでかと飾ってある蕎麦屋では老若男女の行列が出来ていた。
 ソラマチをざっと見て〝次はさくらだ″と浅草を目指して歩いている途中で、蟹料理の店を見つけ、せっかくの雨だからと、たっぷり時間を掛けて蟹を堪能した。

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