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「800字文学館」

次世代の課題は

稲宮 健一

 二〇日の会員講演会で横内さんから核融合研究の現状を伺いました。学生の頃から莫大なエネルギー獲得の夢を聞いたが、反応の持続性、高温プラズマの囲い込みなど難題があり実用化は程遠いと理解していた。久しぶりに聞いた講演では七〇%まで進んでいるとか、本当なの。確かにここ二〇年来の高温超電導の進歩は強力な磁束形成を可能にした点実用化に追い風ですね。

 一方、小宮山宏氏の最近の論文で、断熱性に優れた住宅の普及、自動車の徹底的な省エネ、エコキュート等の電熱併用、産業界の省エネを徹底的に進めれば、現在のエネルギー量で、二〇年後の人類のエネルギー需要は賄えると指摘している。創エネ、省エネの両面から攻めればエネルギー課題は大幅に改善する可能性がある。

 少子高齢化は医学の進歩に後押しされ世界的な傾向である。その課題は、健康寿命を延ばすことだ。壮年期の生産活動に関して、製造業の海外移転とか、非正規労働など課題は沢山あるがそれは別の議論として、長寿命化に伴い、定年後から天寿を全うするまで、生き生きと生きて行く生活の知恵は何かが日本に課せられた大きな課題だ。高齢化が追従している近隣の国々でも時間差を置いて同様な課題に直面する。

 フランシス・フクヤマは「歴史の終わり」の中で、徳川二五〇年の平和な社会を評して、上流社会も下流社会もお互いに争うこともなく、過酷な労働の必要もなかった。闘争心を掻き立てる本能的な活動の代わりに、能楽、茶道、華道、歌舞伎、音曲など永遠に終わりのない形式美を獲得して、その中で、優越願望を満たして人間が生きられることを示したと述べている。
 平成の平和な高齢化社会には壮年期から高齢期と連続的に生活できる仕組みが望ましい。その為には、壮年期から高齢期の生き方を心して準備しておくこと。特別に顕彰される生き方でなくても、普通の沢山の人が満たされて生きたという積み重ねが社会全体の貴重な実績になると思います。

(二〇一四・三・二五)

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