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「800字文学館」

團十郎と勘三郎亡き後

都甲 昌利

 一昨年十二世市川團十郎が、そして昨年十八世中村勘三郎が歌舞伎界から姿を消した。円熟した歌舞伎俳優の亡き後、歌舞伎の人気が落ちるのではないかと危惧された。しかし、昨年4月の歌舞伎座が新装開場して、柿葺落大歌舞伎に息子たちの勘九郎と七之助の兄弟が揃って出演し、華麗な藝を披露しているのを見て歌舞伎は大丈夫という感を持った。
 二人が出演した。「十八世中村勘三郎に捧ぐ」と銘打った『お祭り』。勘三郎がこの新装なった舞台に立ちたかった演目である。
 これは赤坂の日枝神社の山王祭で大江戸中の老若男女が賑やかに楽しく踊る舞台劇である。勘九郎は鳶職、七之助は芸者役。特に七之助の芸者が美しく目を見張る。また、今月の「鳳凰祭大歌舞伎」で、女形第一人者の坂東玉三郎と共演した『二人藤娘』の七之助は見応えのある演技を見せた。
 また、海老蔵も六月の柿葺落大歌舞伎で『助六由縁江戸桜』で助六役を演じ、立派に跡を継いでいた。これも「十二世市川團十郎に捧ぐ」というものだった。
 助六が赤い襦袢、濃紺の着物、裏は真っ白、紫の鉢巻き。番傘で顔を隠して花道に登場。花道の終わり近くで唐傘を高く持ち上げ、足を踏ん張り、にらみを利かせ見栄を切る。この瞬間、客席から「成田屋」の声が掛かりやんやの大喝采。この演目には若手の菊之助も出ていて、歌舞伎も世代交代の時代になったと感じた。
 この他、昨年から今年にかけて、片岡愛之助、市川猿之助、中村橋之助らの若手の活躍が目立った。

 それにしても、気になるのは市川中車である。俳優の香川照之。父・猿翁との確執が解けて中車を襲名、歌舞伎初舞台が梅原猛作「ヤマトタケル」と岡本綺堂作「小栗栖の長兵衛」。これ以後歌舞伎座出演はない。映像の世界から歌舞伎界へのかつてない挑戦で話題を呼んだが、やはり無理だったのか。素人目ではあるが、彼は立派に歌舞伎役者を演じていたと思う。近い将来に必ず表舞台に復活することを願っている。

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