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「800字文学館」

超成熟社会の発展のために(その二)

稲宮 健一

 超成熟社会で高齢者が幸せに自立して生活できる五つの要素は、運動、栄養、人との交流、新しい概念への受容性、前向きな思考が挙げられる。ただ、その前提には健康な体がなければならない。しかし、寄る年波で、何か体に不具合は起きるだろう。そこで、少しの機械的な支援で活動が回復し、自立生活ができるなら、本人も、社会も幸せになる。

 高齢者の自立を支援する生活の質工学(Quality of Life Technology, QoLT)の研究が進められている。ちなみに、カーネギーメロン大学のロボット研究所は二〇〇六年にQoLT研究所を併設して、介護の研究と、その成果の商業化を行っている。
 ロボットは従来、人間の活動の代替として、宇宙、軍事、工場の無人化に寄与してきたが、この研究では人の活動に関わって、人の自立化の助けになる手段のロボットを開発する。介護用ロボットを開発するために、研究者は高齢者の生活に密着して、高齢者の気持になって機械化のニーズを吸い上げて製品化を達成する。超成熟社会を支える若い世代は高齢者の気持ちになって、木目の細かい開発を行い、新しい創業を興していただきたい。

 高齢者の診断に良く使われる内視鏡は日本の成功例だが、他の多くの医療機器、例えば手術用ロボットは海外製が優勢だ。背景は、国内では医学と工学の融合が出来てないためだ。今の専門教育で学部、修士、博士と同じ研究室で学び、狭い分野の専門家が育つ。しかし、従来の専門分野には高齢者社会の需用に合う工学分野はない。米国の例のように研究分野を高齢者の需要に合うように向かわせるべきだ。そのため若い開発者は一つの大学に拘らず、高齢者の実需に合せて自分の専門を修士、博士を通じて構築すべきだ。

 さらに大学の教員と企業人間の人事交流の実施や、企業で経験を経た後、さらに再び大学で研究するなど、多様な選択で超成熟社会を支える人材が育つと良い。何しろ、長寿になったので、人生の時間軸、社会の仕組みはもっとおおらかになってしかるべきだ。

(二〇一四・一・二九/三〇)

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