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「800字文学館」

超成熟社会の発展のために(その一)

稲宮 健一

 産業革命以降の近代化と共に平均寿命が延びた。それでも二十世紀初頭の先進国でも五十歳に満なかった。日本では高度成長期の一九七〇年頃一気に世界一の長寿命を達成した。その後少子高齢化になり、白書*は二〇五五年には総人口が九二〇〇万人に減り、六五歳以上が四〇%を超えると報じている。この超高齢化社会を超成熟社会と捉え、発展する次世代を実現するための記事が一月の電子情報通信学会誌に掲載された。執筆者は小宮山宏、竹中平蔵、大西公平、藤原洋の各氏などの有識者である。各氏の主張する将来の課題を覗いてみる。

 社会の基本である現在の労働人口六七〇〇万人が一七〇〇万人減少する。一国の経済は労働、資本、技術を入力して社会活動の結果として国の供給力であるGDPが生み出される。この三つの要素の内、労働の寄与率は相対的に他の要素ほど大きくないので、人口の減少の比率で、そのままGDPを減少させないが、確実に減少する。これに対して、超成熟社会では女性と高齢者の労働参加が求められる。女性にはより働きやすい支援体制を整えること。そして、高齢者には高齢者に合った社会参加を促す新しい仕組みが必要である。高齢者が元気に社会参加するため、栄養、運動、人との交流、新しい概念の受容性、前向きの思考の五条件が満たされることが前提である。次に資本投入の一番の源泉は貯蓄であるが、近年減少傾向にある。対策として、六五歳以降も個人に合った収入の道を定着させ、高年まで貯蓄が出来るようにすると改善する。

 GDPへ最大に寄与するのが技術に基づくイノベーションである。その流れは十八世紀に英国で点火した産業革命、次のドイツの内燃機関や、空中窒素の固定などの重化学工業、米国での電気エネルギーの発生と利用、さらに最近ではコンピュータや、半導体を主としたディジタル情報などの技術が現在の社会のシーズになっている。(その二)で次世代のニーズに着目して述べる。

(二〇一四・一・一〇)

小宮山宏:元東大総長、三菱総合研究所理事長
竹中平蔵:元総務大臣、慶応大学教授
大西公平:慶応大学教授
藤原洋:ブロードバンドタワーCEO、慶応大学特任教授,
白書:総理府 高齢者社会白書(平成二十四年版)

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