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「800字文学館」

万葉カレンダー

大月 和彦

 聴講している社会人講座の講師のあっせんで、今年も万葉カレンダーを購入した。  大津市生まれの日本画家で、ずっと万葉集を題材にしている鈴木靖将画伯の描いた絵に講師の先生が訳註をつけたもの。  今年のテーマは「大津京の女たち」。ロマンに充ちた相聞の歌に出てくる額田王,倭大后、鏡王女、十市皇女など大津京の美人8人が描かれている。

 大化の改新を成し遂げ、律令体制を作った中大兄皇子は、当時勢いのあった新羅の侵攻を避けるため都を近江に移し、即位して天智天皇となる。
 湖畔に豪壮な宮殿が建ち並び、渡来人も多く、繁栄を極めた国際都市近江の都は、天智天皇の没後、長男大友皇子と皇弟大海人皇子とが争う壬申の乱のためわずか5年で滅びてしまう。
 この時期は万葉集の初期に当たり、天智天皇、大海人皇子、その皇子たち、や額田王や柿本人麻呂などの名歌が多く生まれている。

 ふっくらした瓜実顔、豊満な身体としなやかなポーズの姿態、色とりどりな古代衣装、笙、ひちりき、ヨコ笛、琵琶などの楽器を手にする女性がいきいきと描かれている。
 表紙には天智天皇の寵愛を受けた額田王の
 君待つとわが恋ひ居ればわが屋戸のすだれ動かし秋の風吹く
 と百済琴を膝にのせ天皇を待っている絵がある。
 額田王は初め大海人皇子との間に十市皇女を産んでいる。有名な「あかねさす紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る」は蒲生野での遊猟で天智天皇の目を気にしながら大海人皇子へ親愛の情を詠んだ歌とされる。

 このすぐ後に繰り広げられた天智天皇側と大海人皇子の権力闘争―壬申の動乱を生き抜き、運命に翻弄された額田王の複雑な心境が描かれていると考えるのは思い過ごしか。
 大海人皇子の娘でありながら大友皇子の妃となった悲劇の女性十市皇女はひちりきを口びるにあて、憂いの表情を見せている。
 当時自由奔放だった宮廷での男女関係と政略的な婚姻関係の複雑な関係が垣間見える。

トイレの壁にかけ、毎日万葉美人を鑑賞している。

(14・1・10)

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