作品の閲覧

「800字文学館」

新宿七福神めぐり

池田 隆

 穏やかな正月の昼下がり、散歩を兼ねて自宅近くの新宿七福神へ出掛けた。まず神楽坂の毘沙門天で初詣。他の神々を祀る寺社は一つを除き、そこから西に向かう一本の大通り沿いに在る。
 順に巡って行く。どの寺社にも三々五々と参拝者が訪れている。年配者が多いが、家族連れや若い二人連れも目立つ。それぞれに何を願って手を合わせているのだろうか。つい横から眺めながら想像する。
 拝む像はどれも周りが暗くてよく分らない。しかし写真で見ると、毘沙門天以外の六神は微笑みを浮かべた福徳の顔つきである。いかにも家庭円満、子孫繁栄、五穀豊穣、健康長寿にご利益が有りそうだ。
 七福神の解説パンフを貰い、目を通す。毘沙門天、大黒天、弁才天はインド生まれの神様で、密教と共に日本へ伝来した。福禄寿と寿老人は道教の伝説上の仙人、布袋は実在の禅僧、三者は禅画の題材として中国より伝わる。恵比寿だけが日本古来の神様である。元来は漁業の神であったが、商売の神にもなる。大黒天は語呂合せで大国主命と神仏習合したとのこと。
 七福神のいずれもが脇役的存在に過ぎなかった。日本の庶民が彼らを七福神として編成し、著名にしたのだ。メンバーに釈迦、孔子,天照大神といった大物を入れなかった。そこに為政者や僧侶神職とは違った庶民の大らかで素朴な宗教観を感じる。
 七福神はしばしば一艘の宝船に仲良く乗っている。これも狭い所で大勢がいがみ合えば、一蓮托生、皆が不幸になるぞとの深い教えだろう。私自身が七福神を一種の迷信的な民間習俗と小馬鹿にしてきた節がある。今日からは改めよう。
 つらつら想いを巡らしていると、七番目の恵比寿を祀る歌舞伎町の稲荷鬼王神社に到着した。参拝を済ませ、近道しようと裏通りに入ると、ラブホテル街である。ふと見ると、先ほどの神社で拝んでいた若いカップルが手をつなぎ、笑いながらその一軒に入っていく。笑門来福、きっと七福神のご利益で良い子宝を授かることだろう。

作品の一覧へ戻る

作品の閲覧