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「800字文学館」

地下からのメッセージ

稲宮 健一

 今月五日付英科学誌「ネイチャ」電子版はスペイン北部の洞窟から四十万年前の古い人骨の発見を報じた。未だ現代人(ホモ・サピエンス)がアフリカ大陸に現れる前で、現代人とネアンデルタール人の共通の祖先のようだ。この発見は人類進化の過程を知る新しい手掛かりになるようだ。

 もう少し新しくなるが、中国新疆ウイグル地区で、四千年前のミイラが発掘された。米中共同研究の成果によると、ミイラは欧州人とアジア人との混血であった。通説の前漢の武帝の時代に東西の交流が始まったするする時期より早く、既にこの頃、交流があったことを示している。一九九一年アルプスで発見されたアイスマンは五三〇〇年前で、DNA解析の結果で南欧との血縁や、同じ血を引く人が現にオーストリアにいるとのこと。地下からメッセージだ。

 最近では、貞観地震が有名である。貞観十一年(八六九AD)年発生した大地震は文献に残っているが、実際に地下の地層から採取した地質データの検証から、当時の津浪の大きさが今回の東日本大地震と同じ程度とデータで示せた。地震発生の前に津波の危険を警告していたが、無視され、悲劇を招いた。

 地中の資源の埋蔵なども不思議だ。昔から石油の埋蔵量はあと三十年ぐらいで尽きると言われているが、いつまでも三十年が後ずさりしている。最近ではシエールガスが発見され、新しいエネルギー源が現れた。日本近海でも、日本海、東南海沖にはメタンハイドレートが広く賦存しているので、獲得方法を開発中とのこと。現代版ここ掘れワンワンである。

 海洋も地下同様に謎が多い。海は広く、深く、熱容量が大きい膨大な海水で満たされている。そのため、気温を安定化させる重要な役割を持つ。ただ、地球温暖化の影響で、海表面の温度が上昇して、異常気象の原因と疑われている。実際は、深海に至るまでの内部の海流の動きは解明できない。データ不足のためである。温暖化を究明するため一層の探求が必要だ。

(二〇一三・十二・十二)

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