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「800字文学館」

秋空に誘われ、山辺(やまのべ)の道へ

池田 隆

「春は曙」ならば、「秋は山辺の道」である。澄んだ秋空の季節になると、山辺の道を無性に歩きたくなり、奈良へ出掛けた。
 今朝も雲一つない秋晴れである。興福寺の南円堂より猿沢池を半周し、古い商店街に入る。土産によく買う水飴や和三盆菓子の店はまだ開店前である。左に折れ、白毫寺への坂を上る。
 参道の萩の花がこぼれ落ちそう。山辺の道は此処から始まる。紆余曲折する小径を辿って行くと、崇道天皇陵へ出る。怨霊の元祖だけに祟られると怖い。身を正して拝み、おにぎりタイム。
 歩きを再開し、弘仁寺から白川溜池に出る。人工湖であるが、池畔に古墳公園もあり、よく整っている。小憩を取り、石上(いそのかみ)神宮へ向う。鬱蒼とした森に威厳のある神殿が鎮座する。物部氏が祀った軍事の神様である。境内を闊歩する鶏の群れも強そうだ。初日の行程を終え、天理市で泊る。
 二日目も好天、石上神宮から出発する。立派な門構えの邸宅が続く。やがて視界が開け、左に青々とした金剛山地、右に奈良盆地を一望する。柿や蜜柑がたわわに実っている。小径は傾斜面の果樹畑を縫うように遠くまで続く。今は柿出荷の最盛期である。一軒の農家に立寄り、干柿用の渋柿を自宅まで送って欲しいと注文する。
 この地を倭健命は「国のまほろば」と詠んだ。まさに日本の故郷である。夜都岐神社を過ぎ、萱生環濠集落に出る。戦国時代に民家を守った堀割の淵を通る。左右に点在する小さな古墳に気を取られていると、突然大きな前方後円墳が眼前に現れる。崇神天皇陵である。その先には景行天皇陵も見える。壮大な御陵に大和朝廷創成期の威光を肌に感じる。
 道は桧原神社の境内へ、伊勢神宮の元になった古い神社とか。正面遠方、二上山が夕日にシルエットを描く。隣り合わす狭井神社から見渡すと、大和三山が盆地にポッコリ浮かび、三輪山が間近に迫ってくる。

 この三輪山を祭神とする大神(おおみわ)神社に到着。山辺の道の終着点、柏手を打ち、二日間の歩き旅を終えた。

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