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「800字文学館」

一乗谷が夢のあと

稲宮 健一

 一乗谷遺跡は両岸が深い緑の木々に覆われた小高い丘に挟まれた谷合の平地に広がる。ここに戦国大名の朝倉氏の城下町があった。遺跡には当時を偲ぶ町並の一部が、昭和四二年から発掘された始めた遺構の上に作られている。その町並みは一乗谷川に沿った五〇〇m程の道沿いに、瓦を葺いた土壁の土塀が築かれ、その内側に道幅五mほどの粘土質の道があり、道を挟んで一〇軒程の武家の家や、庶民の家が建てられている。当時の絵画を参考にして復元した家並や、家の内部では武家の生活や、鍛冶屋などの庶民の生活も窺うことができる。

 川を隔てた向う側の丘の山頂には一乗山城が構築されていた。お城から見下ろして一望できる川沿いの平野は、かつて応仁の乱で活躍した初代朝倉孝景が斯波氏、甲斐氏を追い出し、越前を平定して構えた本拠地である。五代一〇三年間越前の中心として栄えた栄華の夢の跡である。

 この遺跡の入場料が二一〇円、安すぎる。しかも七〇歳以上は無料。地域発展のため、世間並みの入場料を取り、観光資源の内容の充実を図り、集客に知恵を出すべきと思った。遺跡の説明は見物ルートの最後の部屋にビデオが置かれ、まとめとして聞けるようになっていた。これは逆だ。入場地点で行うべきだ。町の中ごろに、当時のコスチュームの熟年女性が、有料の抹茶サービスの呼び込みを行っていた。しかし、そのサービスより、入り口で概要説明した後、そのコスチュームの女性が入場者をグループで案内し、故事来歴を語るなら、もっと魅力的な観光資源になるのではないか。

 戦国時代の名残は日本人の心をくすぐるものがある。さらなる観光資源に投資するなら、もっと集客はできるし、地域の発展につながる。福井へは大阪から二時間の便利さ、関西以西の人々に魅力があると思う。
 この旅は福井県武生のふるさと大使である職場同期の友人の案内で、ここの他、継体天皇の神社、和紙の里、永平寺、東尋坊、芦原温泉などを訪ねた。

(二〇一三・一〇・二四)

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