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「800字文学館」

大河ドラマ

稲宮 健一

 大河ドラマは日曜日の食後の団欒として、昭和三八年(一九六三)の「花の生涯」から五二作の「八重の桜」まで、綿々と続いているNHKの看板番組である。検索して全題目を並べると、番組毎に、主演の俳優達の顔が浮かんでくる。昭和三九年は「赤穂浪士」、入社初年度、鷲羽山への社内旅行の帰りのバスが渋滞で遅れ、名場面が終らないかといらいらしたのを覚えている。その頃は白黒テレビで、独身寮の食堂で見ていた。

 五二作までの主題を眺めてみると、戦国時代が二十二、幕末・維新が十二、江戸時代が七で殆どが歴史時代劇である。昭和は二作で、昭和の戦争を扱ったのは一作である。戦国・江戸の筋は我々と直接の繋がりが薄いので、視聴者から批判を浴びない安全牌か、また幕末・維新は登り坂の時代だから、我々の好きな題目であろう。昭和の一作は染五郎(幸四郎)と西田敏行が演ずる日系二世の兄弟が敵味方に分かれ、太平洋戦争で遭遇する運命の不思議であった。

 ここから見えてくる日本人の心情は、お家のため脇目を振らず、一心不乱に頑張る姿や、若い世代が世界に伍していくため、進んだ海外の文化の取り込みに邁進した維新の志士たちの姿への共感だ。これは高度成長期、強兵の代わりに会社への貢献を競った企業戦士の姿と重なる。しかし、戦争に突き進んだ軍人の時代にも、同じ姿が通じるのを忘れられない。五・一五、二・二六と昭和維新の青年将校は言論を封じ、その流れは「広く会議を興し、万機公論に決すべし」などどこ吹く風で、軍人にあらずば、人にあらずと暴走し、敗戦の破局をもたらした。

 定番の歴史劇を繰り返すのでなく、明治の黎明期に東洋人への偏見の濃かったドイツの医学界から世界に躍り出た細菌学の北里柴三郎とか、自動織機を開発した豊田佐吉とか、人工真珠を発明した御木本幸吉など、殻を打ち破った先人訓など面白い。殻を破る痛快さを伝えられないかな。

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