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「800字文学館」

冬の舞岡公園

稲宮 健一

 今日は今年になって二度目の雪の日である。寒い、みぞれの中、私のいつものウォーキングルートである舞岡公園まで我が家から十分程で着く。この公園は横浜市の南部では一番大きく、速足で通り抜けるのに二十分ほどかかる。健康のため、少なくとも三日に一遍、六千歩を四十分で歩いている。
 今の季節、林は落葉して、林のすそに谷戸があり、そこに春を待つ市民のための田圃、農家の田圃や畑、葦の湿地、湧水からなる小さな池が三つある。ここが舞岡川の水源で、ちょろちょろ流れ出る水辺は初夏には蛍が舞う。

 公園の周りは総て高度成長期の宅地開発で開けた新興の住宅地である。この住宅地に囲まれた公園の池に時々鴨が数羽泳いでいる。今日は見なかった、池の中に巣はないのだが、どこから渡ってくるのだろうか。勿論、つぐみ、ほおじろ、もう少したつと鶯などの小鳥も飛んでくる。天気の良い日は重そうな望遠レンズを付けたカメラの三脚の放列が葦の湿地の周りにできる。子供の頃、英国ではお年寄りが双眼鏡を片手にバードウオッチングすると聞いて、鳥を見るだけの変な趣味もあるもんだと覚えているが、時は変わり、今やここでも盛んである。

 そういえば、この頃烏の鳴き声が聞こえない。かつて、住宅地の夜明けは烏の鳴声で始まった。そして、群れをなし厨芥を漁る興奮気味の鳴声に悩まされた。それが、少し前から蓋のある箱で厨芥をしっかり保管してから、すっかり姿を消した。でも、しばらくはこの公園の林にはかなり飛び跳ねていが、今は殆どいない。丹沢か、三浦半島の林に飛び去ったのか。

 兵糧攻めは効果抜群、お蔭で、早朝に「カー、カー」という叫びが消え、高杉晋作の都々逸ではないが、朝寝が邪魔されない。だが待てよ、烏は餌がなくとも、山奥に逃げ、野生に帰って生きられるが、食料自給率の低い我々は、もし食料が絶たれると、山奥に行っても食糧はない。農業の活性化にもっと力を入れるべきだ。

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