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「800字文学館」

旅日記 ― 吹雪の小樽 ―

野瀬 隆平

 函館空港へと降下態勢に入った飛行機は激しく揺れる。何せ「羽田に引き返すこともありうる」という条件付きでの便だ。
 何とか無事に着陸し、出迎えのバスに乗ってみると、雪も降っておらず意外と穏やかである。ところが、最初の訪問地、トラピスチヌ修道院に着いた途端に、激しく雪が降り出した。
 函館山からの夜景は駄目かと諦めていたら、夕刻、山頂に立つ頃には晴れわたり、念願の光景をカメラにおさめることができた。北国の天候の変わりやすさを実感する旅の初日であった。

 翌日、大沼湖、洞爺湖を経て小樽に入り、運河沿いのホテルにチェックインする。今日から、「雪あかりの路」が始まるというので、すぐに撮影に飛び出す。運河沿いに色々な形の灯篭を雪で作り、ローソクの明かりを灯すのだ。周りの雪を仄かに照らし出し、幻想的である。と書きたいところだが、ときおり襲ってくる強い吹雪で、折角の灯火が消えてしまう。
 開会式場には、市長さんはじめお偉方が集まり、ローソクに点火しようとするのだが、強風のためなかなか点かない。その内に、吹雪がますます激しくたってきて、ゆっくりと情緒を味わっているどころでは無くなってきた。

 早々に切り上げて、お目当てのすし屋に行くことにする。この時期、多くの観光客が訪れ混むので、何日も前から押さえておいた店である。吹雪の中、探しあぐねて、やっと店の明かりが目に入ったときは、心底ホッとした。外套の雪を払い落として店に入ると、白木のカウンターが出迎えてくれる。
 雪の中を歩いているときは、「早く熱燗で一杯」しか思い浮かばなかったが、人心地が着いたら、やはりいつもの冷酒となる。ソイやホタテなど地元の生きのよい魚介類をつまみながら盃を傾ける。至福のひと時だ。

 酒がすすむにつれて、60年以上も前に札幌で過ごした小学生時代のあれこれが目に浮かんでくる。さて、明日、旧友が案内してくれる札幌の雪まつりは、どんなであろうか。

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