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「800字文学館」

新宿御苑 皮肉な大温室

大越 浩平

 立春の陽光に誘われ新宿御苑に行く。新装成った温室が目的だ。温室の建替えは平成十九年に始まり二十四年秋に終了、十一月に開館。御苑の新宿口では、今年も数名のダンボールの住民が迎えてくれた。ゲートをくぐれば、間もなく右側のろう梅が香り立ち、植物鑑賞モードに変身する。ランで著名だった従来の温室は、今般、絶滅危惧植物の種子保存拠点園の役割を担い生まれ変わった。

 太陽光を最大限活用する、木の葉型天井ドームの三角形ガラスを組み合わせた大温室の建設が始まった。付近のマンション住民らが驚いて悲鳴を上げた。複雑な曲面屋根ガラスの反射光が眩しい。工事前にすべき付近住民への反射光被害を考えていなかった。反射光を緩和させるフィルムを張る等の対策を講じたが、住民の不満を残したまま着工した。植物保護の拠点は、動物住民には配慮しない。所管の環境省は、ここを環境配慮型の温室と言っている。皮肉な大温室だ。

 温室は見応えがある。以前のように珍しいランを一堂に見る事は出来ないが、熱帯環境に合わせた植生は見事だ。植物のラベルには、絶滅危惧種には赤、準絶滅危惧種には緑、野生絶滅種には青丸の印がついて分りやすい。
 仏教の三大聖樹があった。「無憂樹」釈迦の母が花に触れようとした時、釈迦が産まれた時の樹。「印度菩提樹」この樹の下で悟りを開いた。「沙羅双樹」釈迦の涅槃(入寂 死亡)の際、東西南北、二本ずつ生えていた。これらの樹々を一箇所で観る。二千七百種の植物、百四十種の絶滅危惧種、十一種の国内希少野生動植物が管理培養されている。遊歩道は段差も無く歩き易い。ゆっくりと楽しめる。

 御苑の帰途に楽しみがある。閉店ぎりぎり三時前だ。隋園別館は開いている。急いで飛び込み飲茶の小籠包セットを頼む。海老タンメン、炒飯、特製スープに杏仁豆腐と小籠包だ。熱燗の老酒が疲れた体に心地よい。炒飯はテイクアウトにする。夕飯のビールのつまみだ。水餃子も食べたくなった。

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