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「800字文学館」

「気」を削ぐ報道

野瀬 隆平

 自民党の安倍さんは選挙の前から、日本の経済を立て直すためには、大胆な金融緩和をすべきだと主張している。これに異論があるのは確かだ。しかし、朝日新聞の編集委員が書いた記事には驚いた。
「その論理は雨乞いに似ている。効き目があるのか、ないのか分からない。でも、もっと拝み続け踊り続けよ、さすればいずれ雨は降るかも、という信仰なのだ」とある。
 具体的な対案を示さずに、マイナス面のみを指摘し揶揄するような論評は、公正な報道を建前とする大新聞としてはおかしいのではないか。
 選挙の結果、自民党の政権復帰が現実のものとなると、ニュアンスが少し変わって、「金融緩和は魔法の杖か」となるが、これまた陳腐な言葉を使っての批判だ。その後も、外部の専門家の中立な意見という形をとりながら、金融緩和の危険性を強調する意見を載せている。読者の声の欄でも、また然りである。
 株価があがり円安の傾向が出はじめると、危うさを強調する記事を掲げる。例えば、昨年末に株価が、1万円の大台を超える高値をつけたとき、翌日の朝刊には「株価過熱 暮らし厳寒」の大きな見出しが躍っていた。副題として、「13年ぶり年末最高値、給与は3ヶ月連続減」とある。あたかも13年ぶりの高値を付けたかのような誤解を与える表現だ。たまたま年末の終値がその年の最高値だったというに過ぎない。ちなみに、これまでの株価の最高値は1989年の 38,915円で、昨年の終値はこの三分の一にも達していない。また、給与が減少し続けているというが、これは何も今回の政策が原因で急に給与が下がった訳ではない。

 政策が実施される段階で経済はどう変わるのか、そのとき新聞がどんな論評を加えるのか注目したい。まさか、自分達の主張に反して経済が良くなっては困る、と考えるほど愚かではなかろうが、折角、景気が良くなる兆しが見え始めたときに、その「気」を削ぐようなことだけは書かないで欲しい。

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