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「800字文学館」

身勝手極まる

濱田 優(ゆたか)

 今年も数多くの凶悪事件が起きたが、次々に新事実が表れる尼崎事件の前では色褪せて見える。近年稀な残忍な犯罪なのではないか。
 この事件は、長年にわたって、尼崎市ほかで暴力的に数世帯の家族が虐待、監禁、奴隷化されて崩壊し、十数名が虐殺された殺人事件。2011年11月に主犯格の女容疑者(64歳)が逮捕されて発覚した。事件は複雑で断片的なニュースを読んでも全容はつかみ難いが、Wikipediaの総括した記述を読むとあまりの惨(むご)さに気分が悪くなる。
 目的は狙った家族の財産であり、それを剥ぎ取るためには手段を選ばない。手なずけた一族や子分を使い残酷極まることを平気でする。しかも、狡猾で自分は直接手を下さない。サイコパス(異常人格)とはこんな人のことをいうだろうか。
 この10月にも尼崎の民家の床下から遺体が次々に発見され、いよいよ事件の全貌が暴かれるか、と注目した。ところがなんと、12月12日に肝心な主犯容疑者が獄中で自殺して不起訴処分になってしまい、事件の解明が困難になった。
 主任弁護士に彼女はこんな趣旨の話をしたという。
「傷害致死なら出所時に80~90歳になるので、生きていても意味がない」
 平気で非道なことをしておいて、贖罪の言葉もなく、勝手に自死してしまう。
 従犯の容疑者たちの取り調べは続いても、どこまで事件が明らかにされるか。このまま真相が闇に葬られては、被害者や家族は堪らない。

 狡知に長けた犯罪者に目を付けられたら、一般の人はどうしようもない。
 異常人格者の犯罪は、事前に防止できないとしても、エスカレートする前に当人を捕えて徹底的に監視する以外に手はあるまい。
 ところが、この事件では被害者が事前に警察に駆け込んでも相手にされず、取り返しのつかない結果になり、しかも留置所で不注意にも容疑者の自殺を見逃してしまう。
 頼りの警察がこんな調子では、この先、日本も個人が武装するか、ガードマンを常時雇わなくてはならない危ない国になってしまうだろう。

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