作品の閲覧

「800字文学館」

二つの最新鋭機器

池田 隆

 十九世紀初頭エジプトの西欧化を図るアリ国王は、オベリスクと交換にナポレオン三世より最新鋭の大時計を貰い、誇らしげにカイロ城塞の塔に設置した。
 一九六六年、日本で最大電力を誇る東電は最新鋭のGE社製原発を福島に設置し、政府と共に米国の原子力世界戦略の先兵役を華々しく務める。

 カイロの時計台は設置直後より度々止っていたが、四年後の激しい砂嵐の日のこと全く動かなくなった。仏国では想定できない多量の砂塵が精巧な機械仕掛けの時計に隈なく入っていた。それが原因であった。
 福島原発も運転開始後しばしば故障していたが、ついに四十年後の二〇一一年の大地震翌日に大爆発を起し、メルトダウンに至る。米国では経験のない大津波が襲い、原発に必要不可欠な非常用電源装置を水没させた。それが直接の原因である。原発周辺は広く放射能で汚染され廃土と化した。

 十九世紀中期にカイロ城塞がエジプト最大のモスクに改築されると、止ったままの大時計台は一角を飾る塔となり、現在も人気の観光スポットである。
 二〇五一年、原発事故四十年記念式典の日、事故後に人類の思想を大転換させたとして無残な姿を未だ残す福島の原子炉建屋は世界遺産に認定される。ただ残留放射能のため立入りが制限されている。原発敷地跡には放射性廃棄物処理と廃炉の技術開発センターが建ち、中では鋭意研究中である。
 その近くの地域にはソーラー発電、マグネシウムサイクル、炭酸ガス分離発電など、エネルギー技術の研究開発設備が集結している。周辺の海域にも無数の風車発電機が立ち並び、その沖はメタンハイドレード大油田の基地へと続く。
 原子力の後処理と新エネルギーの技術分野で世界のメッカとなった福島は各国から集まる大勢の技術関係者で賑っている。

 今後を想像するにつけ、我々世代から受けついだ未曾有の負の遺産、原子力の後遺症と後始末に苦悩しつつ、その解決に向けて真剣に努力する未来の彼らに頭が垂れてくる。

作品の一覧へ戻る

作品の閲覧