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「800字文学館」

カジノ点描

中村 晃也

 初めてのカジノは韓国のウオーカーヒルだった。カーテンで仕切られた部屋で、なにやら大声で叫びながら、札束を手にプレイしている日本人グループに入れてもらおうとした。「兄さん、どこの組のもんだい?」ときかれ、直ぐにヤクザ仲間のお遊びと分かった。

 イギリスのブライトンでは、出張のたびに八年も連続して通ったお陰で、カジノの会員の資格を取ることが出来た。十数万円儲けて金の首飾りを買って、銀座のママに貢いだというあらぬ噂を立てられたこともあった。

 ラスベガスで儲けたのは一度だけ。コインマシーンでスイートスポットを当てたことがある。十セントコインを一度に三枚いれて三面で遊ぶ機械だ。手持ちが少なくなりもう駄目だと観念した瞬間、突然頭上でサイレンがなり、ライトが明滅し、コインがジャラジャラ際限なく出てきた。人だかりがして「ビューテイフル」といって握手してくれた人が居た。大きなコーラ用の紙コップ一杯のコインをチップに換えて、勢い込んでルーレットにチャレンジしたがあっという間に惨敗した。

 モナコでは、道路の向かいのパレロワイヤルホテルから地下道が通じていて、人目に晒されずにカジノに行ける。イブニングドレスを纏った美人がにこやかに応対してくれる。部屋の調度も、天井も豪華な装飾で飾られ、客もネクタイは必須。Tシャツでギャンブルというわけにはゆかない。プレイ中はシャンペンの飲み放題とはいえ、ミニマム三十ドルという表示札が目に付き、我々庶民には縁遠い場所である。

 パナマの賭場は独特の雰囲気である。運河の通過待ちの船員が主な客筋だ。日焼けした髭面。頭を覆う手ぬぐい。縞のシャツ。刺青をした太い腕。まるで海賊だ。間違えて他人のチップに手をかけて、「モメント」といって腕を掴まれた時はゾッとした。

 とにかくカジノでは、その国の言葉で数字を咄嗟に言えないと事が進まない。「エーと」なんて口に出して考えていると、八の枠に賭けたことにされてしまう。

二十四年九月

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