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「800字文学館」

3600年前の数学

野瀬 隆平

「直径9mの円の面積を求めよ」
 円周率を知っている我々は、公式を使って簡単に計算することができる。では、古代エジプトの人たちは、どのように円の面積を求めていたのか。この時代の数学に関する記録があり、その方法を正確に知ることができる。
 残されている資料は、大英博物館が所蔵する「リンド数学パピルス」だ。テーベ、現在のルクソールの近くで発見されたこのパピルスを、1858年にスコットランドの法律家であり、遺跡の発掘に関心の強かったヘンリー・リンドが手に入れた。パピルスの呼称は彼の名前に由来するものである。
 今から3600年以上も前に、ヒエログリフの草書体に相当するヒエラティク(神官文字)で書かれたこのパピルスは、幅33cmで長さが5.64mもあり、87の数学の問題と、その解き方と答えが記されている。
 その問題の一つが、「直径9ケトの円の面積はいくらか」というものである。ちなみにケトとは、当時の長さの単位で、9ケトは、およそ470mに相当するという。
 記されている回答は、こうである。
「汝は(9から)その1/9である1を引くことになる。残りは8である。汝は8を8倍する計算をすることになる。それは64になる。これは土地(の単位)でのその量である」
 要するに、円の面積は、直径の8/9の2乗として計算されている。円周率を3.14として我々が知っている方法で計算すると63.585となり、かなり正確であることが分かる。πを逆算して計算してみると、およそ3.16になる。
 その他に、こんな問題もある。
「100個のパンを10人で分ける。ただし、そのうちの船頭と隊長と門衛の3人は2倍もらえるとした場合、何個ずつになるか」というもの。
 さて、どう考え計算するのか。先ず、100個を13等分すればよいことに気づく。特別の3人以外の者の取り分は、100/13=7 9/13と答えるところだ。
 では、古代エジプトの人はどう考えたか。答は次回のお楽しみとしよう。

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