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「800字文学館」

日航のV字回復は本物か

都甲 昌利

 2010年1月、日航が破綻した時のマスコミの非難は凄かった。「国民の税金で救うべきでない」とか「JALは二度と復活しないから潰せ」など。
 日航OBとして、ひとこと言わせて貰えば「破綻の原因は経営陣の無能さにあったにせよ、政官界の利権構造と行き当たりばったりの航空行政に翻弄されてきたことに真の原因がある。天下り経営者が多く、自民党の族議員や運輸省(現国土交通省)が日航を牛耳ってきた。運輸大臣が社長だと言われるくらいであった。日航は政府が立ち上げ政府が潰したと言える」。

 自民党から政権を引き継いだ民主党は日航をどのように処理すべきか、という問題につき当たる。出した結論は強制力を伴うリストラ可能な法的整理が選択され、企業再生支援機構に委ねられた。そして民主党の前原国土交通大臣(当時)によって日航に送り込まれたのが稲盛和夫京セラ名誉会長であった。

 5200億円の債務免除と3500億円の公的資金を受け、また不採算路線からの撤退、1万5千人の解雇、給与の削減とOBの年金カットという多大な犠牲を払った。稲益氏のカリスマ的な独特の経営手腕により2年余りで業績は急激に回復した。今年3月期の決算では2049億円という記録的な営業利益を出し株式の再上場を申請した。この奇跡的な回復に対してマスコミは稲盛会長を企業再生の神様ともてはやした。

 東京証券取引所は予定通り株式再上場を承認した。しかし、民主党主導で再建を果たしたため、自民党から異論が出ている。再上場による利益は国民が負担した公的資金の返済に当てるが、京セラの収入にもなるのではないかと国会でも取り上げられた。稲盛流コスト削減、合理化による労働強化、かつての労働組合が会社を潰した一つの要因というトラウマから組合対策には神経を使っている。安全面もコスト削減で不安が残る。稲盛氏が選んだ植木義晴社長は機長出身で政界には人脈がない。日本航空は再び政争の道具になるのだろうか。

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