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「800字文学館」

探し物は何ですか

志村 良知

 探し物が下手である。
 図書館や本屋で目的の本を探したり、スーパーで特定の品物を探し出したりするのはかなり得意であるし、自分で片付けたものを仕舞い忘れてウロウロする、と言う事も皆無ではないがそれほど頻繁という訳ではない。
 問題は、他人が片付けたものを見つけ出せないこと、眼の前の誰にも判るような場所にある物に気付かないことが多いということである。
 子供の頃からの筋金入りで、母から「○○を持ってきとくれ」と頼まれ、どこの引き出しのどこにあると聞いて、懸命に探しても見つからず「めっかさらん」と手ぶらで母の下に戻り、やむなく母が自分で取りに行くことも再々であった。机の上や玄関脇に置かれた学校へ持って行く物品等にも全く気付かず、素通りする事も多かった。
「ここにあるじゃん、何を見てるで」。半ば叱られ、半ばあきれられた。
 そして母はよく言った。「あんたは、泥棒にはなれんねぇ」

 幸い長じて腕の悪い泥棒になる事なく、正業につく事が出来た。
 職場(実験室)では器具や薬品を探すのが苦手であるが故に、全て自分で整理整頓して並べ替え、実験室の主のように振舞った。

 しかし、連れ合いには結婚してすぐこの性癖を見破られた。
 特に洗濯して仕舞ってある衣類が判らない。連れ合いの言葉でいうと「引出しの中をぐちゃぐちゃにするだけで探してないから」だそうである。そして、衣類に関しては自分で仕舞い、整頓するように躾けられた。それならどこに何があるか覚ればよいので問題ない。それでも揉めるのは衣替えの頃で、「XXが無い」「出しておいたのにどうして判らないの」「ぐちゃぐちゃにした」で家庭不和になる事もある。
 最近では食事の支度を手伝うが、食卓に出ているコップや箸に気付かなかったり、連れ合いが、メニューに合わせて用意した皿やスプーンなどが全く目に入らず、食器棚から別物を出し、テーブルに並べて怒らせたりする。
「ここにあるじゃない、何を見てるのよ」

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