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「800字文学館」

スカイマーク・エアライン

都甲 昌利

 スカイマークが新たな機内サービスを打ち出し、客室乗務員の接客をめぐり物議を醸している。いわく、手荷物は自分で収納して下さい、乗務員の服装は自由で、丁寧な言葉は使いません。幼児の泣き声の苦情は受けません。苦情があれば「お客様苦情センター」か「消費生活センター」に連絡して下さい、とチラシを作って顧客に知らせた。これは従来過剰とも思えるサービスに対し、うるさ型の顧客に対する防衛と、コストを下げ、安全に乗客を目的地まで届ける保安員として乗務しているのですよ、と言っているように見える。

 私はソ連時代のアエロフロートのサービスを思い出した。両手に荷物を抱えた、一見農婦風のおばさんがタラップを昇っていったところ、乗務員に収納場所場ないと咎められた。おばさんは更に一段昇ろうとしたら、なんと乗務員はおばさんを足で突き飛ばしたではないか。おばさんはもんどりうって下まで転げ落ちた。これを見た日航の乗務員が「一度でいいからあんなことをやってみたい」としみじみ言ったことがあった。

 客室乗務員は接客で強いストレスのかかる職業である。ホークシルドという米国の社会学者が客室乗務員の労働を分析し、笑顔は仕事の一部であるが、作り笑顔である、フライトに疲れている様子を見せてはならないので、乗客に対してはいつもいらだっている、として肉体労働、知的労働に加えて感情労働という概念を提唱した。

 JALやANAは顧客を満足させるためにはコストをかけて乗務員に教育をして投資をしている。「感情労働」分のコストを削り削減額を価格に反映させて運賃を安くするというのがスカイマークである。

 私はJAL/ANA型の航空会社とスカイマーク型の航空会社の両方が存在しても良いと思う。何故なら顧客は航空会社を選べるからだ。ソ連の場合は国営航空会社が一社で乗客は選べない。
 自由化によってLCCが参入したが、安全に対するコストだけは削減しないで欲しい。

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