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「800字文学館」

放射線のアララ

野瀬 隆平

 宇宙人はいると思いますか。
 これまで地球上で捕えられ、宇宙人が存在するという確たる証拠がつかめていない。だからと言って、広い宇宙に人間に近い生命体が絶対にいないとは言い切れない。

 年間100mSv以下の放射線被曝が人体に悪い影響を与えるかどうかも、これと似た問題です。無いという証明ができないので、論理的には、あるかも知れないとするしかないのです。
 これまでに被爆した人たちを長年、追跡調査した結果でも、100mSv以下ではガンの発生率が上がるという明確な事実はない。その他の諸々の知見から判断して、状況証拠的には影響がない「シロ」である可能性が大きいと個人的には思っています。
 しかし、ICRP(国際放射線防護委員会)は、安全サイドをとって、100mSvを閾値とはせずに、「合理的に達成できる限り低く」することを提唱していて、日本の政府も基本的にその考え方に従っています。
 英語でこのICRPの精神は、As low as reasonably achievable、略してALARA(アララ)と言われています。

 そこで、問題は ALARAの「RA」であるreasonablyにachievable の範囲をどう考えるかです。
 政府は今年の4月に規制を再考するにあたり、国民をより安心させようと、achievableの範囲を広くとらえ、規制値を低く抑えました。例えば、食品の安全基準も、被曝基準およそ10mSvをもとに定められました。これは欧米の基準の10分の1の厳しさです。安全基準を低く設定して、それに適合する状況を作るには、当然のことながらより大きな費用がかかり、他のことを犠牲にする必要がでてきます。また、基準がクリアーできないときには不安感が残ります。従ってICRPも、かつてはAs low as possibleとしていたのを、reasonably achievableと変更したのです。

 国としては、少なくとも欧米並みに規制値を定めて、それより低いものを求めるかどうかは、個人の自由な判断にまかせた方がよかったのではないでしょうか。最終的には、自分が何に重きを置いて価値判断するか、個人の問題だと考えるからです。

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