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「800字文学館」

国のかたち

富岡 喜久雄

 八王子市にもかなりの外国人がいて国際交流のための会合もある。それに参加して、あるデンマーク人と懇意になった。ベトナム、ラオスで仕事上の関係もあったし、そこのビールはカールスバーグとの提携品だったので関心があったからである。
 その彼が最近は愚痴っている。本国から送られてくる年金が円高で目減りして、日本人妻の機嫌が悪いというのだ。日本は北欧を手本にしようとしているようだと彼に話すと、大学も無料だし、医療他福祉も手厚いが、何しろ五十%近く税金に持って行かれる。それにあまり政府に干渉されると人生が味気ない。やはり波乱はあっても自主自立の人生に憧れるのか、外国で働く者も多いと言うのだ。それでも、日本は社会福祉もまだ手薄だし、消費税も低いから北欧諸国を模範とすべきとの声も多い。

 思い出すのは現役最後の職場となったシンガポールである。 国土、人口等規模の違い、決して民主的でもない政治等日本とは同列に比較できないが、あの小さな島国が状況変化に応じて、いかに国の在り様を変えてきたかを見ると学ぶべきことが多い。 時代と周辺環境、国情に応じて転換させてきた産業政策、信賞必罰の罰金制度、国の隅々までの庭園化等々。職業紹介も民間事業だったし、年金は積立方式で、個人は積立額をいつでも見ることができ、しかもそれを限度に基金から借入も可能であった。
 防衛では、海に囲まれているからだろう、地下鉄の窓に「不審な敵潜水艦に注意しよう、見たら通報を」とのビラを貼ってもいた。狭い空域なのに空軍もある。罰金だらけで煩い気もしたが、周辺諸国よりすべてに高い水準を保持しようとする為政者の熱意が感じられたものである。
 鎖国して海外脱出を抑えていた時代ならともかく、いまや企業はもとより、個人も国を選べる時代である。人も資本もいつまでも日本に住み続けるかどうかわからない。
 日本の政治も議してばかりでなく、将来を見据えた国のかたちを問うべきだろう。

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