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「800字文学館」

ヌードのカレンダー

中村 晃也

 ソビエト連邦の農業省の局長に会って欲しいと商社の駐在員に頼まれた。
「農薬の登録を急いでもらうには、現地に乗り込んで直接お願いするのがベストです。局長はジャズが好きで、お子さんはプラモデルに夢中です。ついでにロシアでは入手困難なエロチックな写真でもあると最高なんですが、没収覚悟で持ってきてください」

 ジャズのレコードとマジンガーZのキット、それにヌード写真などを揃えたが、モスクワの税関でヌードの壁掛けカレンダーが見つかってしまった。
 税関吏が集まってきて全ページを丹念にチェックし、これくらいならと返してくれた。それとは別にヌード写真付きの、トランプ大のカレンダーカードを二十枚ほど用意したが、これは幸い見つけられなかった。

 農林省の局長室では、若い愛想のよい男が同席していた。商社マンによると彼はお目付けの共産党員で、賄賂のお裾分けを狙って会談の内容を逐一チェックしていたのだそうだ。

 その夜、外国人専用ホテルで食事をした。フロアショー付きである。スタイルのよい可愛い女性達がセクシーなダンスを展開している。「彼女らは公務員なのですよ。ウエイターもコックもそうですが」
 ショーが終わって踊り子達がぞろぞろ出てきた。商社マンが「ちょっとちょっかいをかけてみますね」と言って一人の踊り子に何事か囁いた。その子は急に天井の一角を見て大声でなにか言っている。
 「天井に隠しマイクがあって、我々は全て盗聴されているのです。あの踊り子は、日本人に誘われたがハッキリ断った、とマイクに喋ったのです」と商社マンが解説した。

 食後は、コーヒーや食後酒を前に、バンドが軽音楽を演奏している。商社マンがバンドリーダーにカレンダーのカードを渡し、私の方を指さして彼からのプレゼントだと言った。 急に演奏曲が「上を向いて歩こう」に変った。

 「バンドマンは大喜びですよ。あのカレンダーのカードは換金できるんです。もっと沢山くれたら北方領土を返してもいいといっているんですがね」

二十四年一月

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