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「800字文学館」

ソーシャルゲーム

小寺 裕子

 グリーという会社をご存知だろうか。私は春に外国人投資家と会社訪問するまで知らなかった。もし春にグリーの株を千株(百五十万円)買っていたら百万円儲かっていた。今や時価総額はいすゞ自動車やリコーを抜いて五千五百億円だ。IR担当も感じが良い。しかし私はどうしてもこの手の会社に投資する気になれない。  グリーは携帯やネットで交流サイトを運営して、そこで仲間と遊べるソーシャルゲームを提供している。ゲーム自体は無料のものが多いが、アイテムを購入すると課金される仕組みだ。ゲームを真剣にやる人は毎月一万円分のアイテムを購入するという。  たとえば自分の農場を作るというゲームの場合、牛や羊を買う。良い品種を選ぶとか、災害に見舞われたら牛舎を修理するアイテムが必要など、出費がかさむようにできている。優良な羊が育ったら、それを友人に贈ることもできる。贈り物文化が未だ残っているのには、ほっとする。なかなか消費者心理をうまく突いた遊びである。  会員数は三十代を中心に二六四〇万人、横浜球団買収で騒がしい競合会社のディエヌエーにも三二〇〇万人の会員がいる。日本の大人の約半数がこんなゲームをしているのだろうか。会員が重複しているとしても、ものすごい数である。  しかし架空の商品を売り、売上総利益率九十一%、営業利益率四十八%などという会社の株が急騰することは、不快だ。製造業のリスクもなく、震災の影響も受けない同社に、安易な投資家の金が流れたということだろう。金儲けのためなら何にでも投資する姿勢は、リーマンショック以後も、ちっとも変わっていない。  今ニュースは登社拒否の増加を報じている。過去のものとなった社内運動会や麻雀は、職場とは違う上司の一面が覗けて許せる気分になる潤滑油だった。次世代に本当のゲームやスポーツの面白さを伝えなかったのは残念だ、と思う自分がひどく歳を取った気がする。

2011/11/11

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