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「800字文学館」

圧倒的な迫力

稲宮 健一

 大曲の花火を見に八月末秋田県大仙市を訪れた。この花火大会は花火師が我こそ日本一と自認して造った作品を自らの手で打ち上げ、総理大臣賞を狙って、華麗さと豪華さを競う全国競技会である。夜の部は七時から始まり、打留の九時半まで、二十七の題目の花火が息付く間もなく打ち上げられる。
 極彩色の光の筋が天空を覆い四方八方に広がると、間髪を入れず、次の光の玉が裾を飾っていくつも破裂して、それに続き、ニッコリ笑った顔や、ハートの型などの課題毎の創作花火が夜空に踊る。
 光の筋は一束なって、視界の隅から、隅まで眼いっぱい入ってくるだけでなく、一番広がったとき、腹に響く「ドカーン」という音が体を揺する。正に二時間半、光の渦と爆音に嵌った。この迫力は会場でしか体験できない。
 この閃光と爆音の饗宴に漬かるため、この小さい大曲に七十万人もの人が押し寄せる。
 次の日は秋田市内を散策した。佐竹氏の城跡に向かうと、平野美術館に行き当たった。そこで、また一つの迫力のある芸術品に遭遇した。昭和十二年、藤田嗣治作「秋田の行事」である。美術館の一階は大きなホールになっていて、その壁面一杯、高さ三・七、横二十米の力作が張り付いる。入口そばに置かれた椅子に座り、三十分程見とれていた。絵は雪の秋田、竿灯祭りの秋田、秋田の年中行事とその頃の風俗が眼に飛び込んでくる。どこかはっきりした線と淡白な色合が日本画に似た描き方を感じた。
 この絵は、藤田が自分の絵は世界一と富豪平野政吉に豪語したところ、それなら『世界一の絵を描け』とけしかけられ、半年ほど秋田の行事のデッサンに費やした後、二週間程で一気に仕上げと伝えられている。
 花火も、絵も、知識として本やテレビで紹介されている。しかるに、この両方共、全身で受け止めるべき臨場感を伝えている。それは薄っぺらな訴え方ではない。我われが普段使ってない五感全体に刺激を与える、そこでしか味わえない醍醐味なのだ。

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