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「800字文学館」

タッチ・アンド・ゴー

都甲 昌利

 「タッチ・アンド・ゴーって知っているかい?」と悪友に聞いたら、「知っているよ。若い可愛い女の子のお尻に触って立ち去ることだよ」と名答(迷答?)が返ってきた。

 言い得て妙だが、航空業界ではこの言葉はパイロットの訓練の時に使う。パイロットは通常、宮崎県にある独立行政法人の航空大学校で1年間、航空の基本知識を習得した後、北海道帯広空港に隣接した訓練所でビーチクラフトなど小型機に搭乗して実地訓練を更に1年間行う。無事この過程を終了し卒業して各航空会社に就職する。しかし、この程度の知識や技量ではものにならない。航空会社はさらに西南諸島の下地島で実際飛んでいるジェット機を使用して訓練をする。操縦訓練で最も力を入れるのは離着陸である。特に着陸である。航空事故の80パーセントは着陸の際に起こるからだ。パイロットも着陸の時が一番緊張するという。計器を使用して着陸するが最後は目視である。悪天候の時、滑走路の先が見えずオーバーランの危険を想定して、車輪が地面に着くと再びエンジンを噴射して離陸をする訓練を行う。これをタッチ・アンド・ゴーと云う。

 最近「タッチ&ゴーでチェックイン」という広告を見た。空港のチェックインでICカードが使用できるとは知らなかったので、先月大阪に行く時体験してみた。先ずインターネットで予約と座席指定をする。羽田空港に到着しチェックイン・カウンターに寄らず、直接手荷物検査場に行きICカードを読み取り機にタッチして検査を受ける。搭乗口番号が提示されたカードが出てくるので、これを持って指定されたゲートに行く。搭乗案内がありICカードを再び読み取り機にタッチ。目的地、便名と座席番号の記入されたカードが出てくるのでこれを持って指定された座席に座る。このサービスは航空券を手にすることなく航空機に乗れるので、別名「チッケトレス・サービス」という。便利だがなんだか味気なく航空券が存在した時が懐かしい。

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