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「800字文学館」

離婚騒動!

平尾 富男

 旧知の女友だちから携帯に電話が掛かった。
 「弟が離婚の危機に陥っているの。浮気が嫁に発覚したらしいのよ。貴方も知っている通り、弟は五十歳半ばで、もうすぐ役員になるところだから、そんなつまらない問題で折角の出世をふいにさせたくないのよ」
 電話の主も二十年前に離婚している。これまで、なにかと相談に乗ってきた経緯があるが、弟さんの離婚騒動にまで巻き込まれたくない。
 「君は弟さんの離婚で、彼の役員昇格がダメになることを恐れているの。それとも、弟さんの出世とは関係なく、とにかく離婚をさせたくないと言うのかい。君の言い方は、お嫁さんの方に余り良い感情を持っていないみたいだけど」
 こう言うと、昔から年の離れた弟を可愛がっている電話の相手は、攻撃的な口調で抗弁した。
 「そんなことないわ。義妹はとても嫉妬深くて、今までにも何度か弟がしてもいない浮気を口実に離婚を迫っているのよ。今度ばかりは証拠を握られているらしいのが問題なんだけど」
 「お嫁さんが彼と離婚したいと言うのは、それなりに夫婦間に問題があるんだろう。僕に相談を持ちかけられても無理だよ。それに、離婚が原因で昇進に影響を与えるような会社なんて今時存在しないから大丈夫だよ」
 「なによ、冷たいわね。私が離婚した時には、最初からずっと親身に私の味方をしてくれたのに」
 友人の離婚当時のことを思い出しながら電話に向かって言った。
 「君の元旦那のことは好きではなかったし、どう見ても君が可哀想だったからね。今度の場合は、弟さんは実際に浮気をして、それをお嫁さんに見付かったと言うんだろう。僕も知っているけど、お嫁さんは優しくて中々可愛い女性じゃないか。君の時のように、離婚を勧めたいくらいだよ」
 すると何を思ったか、相手は「貴方は弟の嫁が好きなのね。もういいわ」と、怒ったように電話を切った。
 その一週間後に電話が入る。
 「弟夫婦はなんとか縒りを戻したみたい。あなたには残念よね」

(了)

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