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「800字文学館」 日常生活雑感

わが愛しのキャンディーズ

志村 良知

 今年の四月、キャンディーズのスーちゃん、田中好子さんが亡くなった。
 告白すると私はキャンディーズのファンだった。全キャン連に身を投ずるにはやや歳を喰い過ぎていたが、NHKの歌番組のマスコットだった彼女らを「なんだ、あの隅にいる可愛いのは」と見初めたごく初期からのファンである。

 リーダー格のランちゃんは振りや歌が微妙に音楽に遅れて粘っこく、声も粘っこい。良い表現ではないが、顔も姿も男好きするタイプである。
 ミキちゃんは身長に比して手足が長く、振りは大きく切れがあり、バービー人形を思わせた。音楽の才能も高く、アルトというパートにいて二人を支え、時にメイン・ボーカルより高い音程の裏旋律もこなした。
 スーちゃんは日本の女の子の最大公約数という感じで、後のお母さん役名女優の雰囲気が既にあった。声は音域が広くきれいに澄んでいて、ランちゃんの声とは対照的な魅力があった。

 キャンディーズは私が就職したころ世に出はじめ、結婚する二十日前に解散したので、彼女らの活動期間は私の独身サラリーマン時代と完全に重なっている。その頃の私は休日出勤も多く、夜は夜で自由が丘界隈を徘徊する事が多かったので、コンサートはおろかテレビで見ることもままならなった。
 しかし、当時流行りのオーディオには凝っていて、キャンディーズはレコードとFMの録音で追っかけた。歌がうまく、ロックやレゲエを取り入れ、凝った編曲の彼女らの曲は高級オーディオ・システムで聴いてこそであった。

 ブレイクした『年下の男の子』。ベース・ギターに支えられたランちゃんのボーカルと、それにからむミキちゃんのアルト、スーちゃんのメゾソプラノのコーラスの可愛さはこの世のものとは思えなかった。衝撃の解散宣言直後の吉田拓郎からの惜別の曲『アン・ドウ・トロワ』では「今がその時ためらわないで」に涙した。スーちゃんがボーカルのこの曲は今でも一番好きである。

 スーちゃん、さようなら。

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