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「800字文学館」 体験記・紀行文

もう20年以上前のことです

松谷 隆

 午後5時すぎ7番ホールから次のティグランドに向っていると、「ドーン」という大きな音と「ザァーザァー」と波のような音がする。周りを見ても、木の葉も揺れず異常なし。
 ふと、空を見上げてびっくり。真上の高圧線10数本が触れ合わんばかりに揺れている。地震だと直感した。
 1989年10月17日、アメリカ・シリコンバレーのゴルフ場でのことである。2日後の顧客との打合せに出席する日本からの出張者たちと、時差ぼけ解消のためと称し、ゴルフをしていた。

 「地震だ。事務所に確認の電話をする」と彼らに告げ、クラブハウスへダッシュした。公衆電話で、従業員、建屋および大型コンピュータなどの設備に異常なしを確認した。「すぐ帰る」と告げ、9番を終えた彼らを乗せ出発した。車で10分の距離なのに、停電のため信号機が停止、交差点では1台ずつしか進めず、8時過ぎにやっと辿りついた。
 この間、ラジオでこの地震の震源地は少し南のロマ・プリータ山、規模はM6.9、約50キロ北のベイブリッジやサンフランシスコ湾東岸の高速道路の陥没、海岸沿いのマリーナ地区の液状化や火災などの被害を知った。

 事務所からは社内専用ネットワークで本社に「異常なし」を報告し、後発の出張者に出発の確認をしたところ、「サンフランシスコ空港は閉鎖と報道されている。出張中止もある」という。「ダメもとで、成田まで行け。ロス経由も考えろ」と説得し、事なきを得た。

 後日、同僚からある出来事を聞いた。同僚に同行した当事者も当日午後5 時前、サンフランシスコ空港からレンタカーを運転し、高速道路で前の車の蛇行を見た。シリコンバレーのホテルにチェックインの時「本日、レストランは休み、エレベータも動かない」と宣言された。7階まで歩いた彼が「部屋は無茶苦茶、すぐ片付けろ」とねじ込んだら、「これは地震のせいだ。あの大地震を感じなかったのか」と馬鹿にされたとのこと。なおラジオはオフにしていたそうだ。

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