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「800字文学館」 日常生活雑感

福島県 中通りを歩く(四月二十五日 二十六日)

大越 浩平

 福島県は、太平洋に面した相馬市からいわき市までを浜通り、福島市、郡山市、白河市の中央部を中通り、喜多方市や会津市の山側を会津地方と呼ぶ。それらは、歴史的背景で県民気質、地形で気候も異なる。
 知人の多い中通りの三春、郡山、白河を訪ねた。この地区の大震災の震度は5~6弱で、被害も相当ひどいが、それ以上に大変だったのは、浜通りの原発被害者と地震、津波被災者の避難所として三春に千人、郡山に五千人、白河に四百人ほど引き受けていたことだった(現在は減少)。
 三春町の役場広場には避難した人々が大勢いて、様々な情報交換をしているが、皆厳しい表情だ。三春には現在、富岡村の約四百人が避難している。玄侑宗久氏が住職を務める福聚寺に行く。寺の正門に立つ左側の灯篭は倒れてゴロゴロと転がっていた。
 三春町は放射能の情報不足の中、MOX燃料を使っていた原発3号機の水素爆発を知り、町民に「ヨウ化カリウム丸」を飲ませる決断をした。
 郡山市に入る。三春より建物の被害が大きい。寺の石碑が多数倒れ、立派な日本瓦の屋敷の屋根が落ちている。知人の家の大谷石の塀は完全崩壊していた。現在、郡山は原発放射能の濃度が高く、子供達は外で遊べない。
 白河郡西郷村で一泊する。翌朝、特別養護施設等の数多くある地域を回る。施設の入居者が散歩をしていたが、表情が暗い。未だ怯えているのだろう。避難者に入浴サービスをしている温泉施設に行く。想像以上に混んでいた。そして皆、無口だ。刺青の男もいる。久しぶりの入浴なのだろう、洗い場にいる時間が長い。とても声をかける雰囲気ではない。

 黙りこくって温泉に入浴している男達を見て、まだまだ心の休まる状況にないことを痛感する。

 灯篭の倒れた福聚寺のしだれ桜、子供のざわめきのない、郡山の桜の名所開成山。桜達は怒りを込め、東北の復興を願い力一杯満開に燃えていた。

 原発被害者と、地震津波被災者の苦しみは全く異なる事を実感する。

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