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「800字文学館」 政治・経済・社会

放射能と戦う男たち

大月 和彦

 福島の原発事故は予断を許さない事態が続いている。
 事故原因や責任は、今後きちんと検証されるべきとして、現在は放射能の危険にさらされながら決死の思いで復旧作業をしている現場の人たちの努力に頼るしかない。

 事故発生以来、注水、機器類の点検と修理、放射線物質の飛散防止などの作業が行われているが、破損個所が次々に明らかになり、作業は難航し長期化が予想されている。
 東電社員のほか協力会社、日立、東芝など原子炉メーカー、人材派遣会社の社員など数百人が取り組んでいるという。
 報道される現場の作業は過酷で厳しい。完全防御服で身を固め、ガレキの残る現場での工事・作業は線量計を頼りに時間との戦い。
 敷地内での作業の拠点「免震重要棟」の環境も劣悪らしい。睡眠はいすに坐ったまま、毛布をかぶって床でごろ寝する状態という。トイレに水が出ず汚れっぱなし。食事は一日二食、朝はビスケットと野菜ジュース、夜は非常食のご飯とカンヅメ、とも伝えられていた。
 天井崩落によるけが、ケーブル敷設作業中に足が汚染された水に浸って大量被ばくなど作業員の被害も次第に明るみに出ている。技術先端を行く原子力産業の労働者の安全管理は意外にお粗末だった。

 建屋の水素爆発の後も事故現場に残った人たちについて、海外のメディアは早い時期に「顔の見えない作業員が50人残っている」、「フクシマ50」と報じ、オバマ米大統領も「日本の作業員らの英雄的な努力」と称えた。
 「自分たちで何とかするしかない」、「自分が作ったプラントは自分で守りたい」と話す現場の男たち。英国のある学者は「殉教者を思わせる姿」と評した。

 命をかけて自分の職場を守る――使命感に燃える男たちは頼もしく、日本企業の強みである。しかしこれに甘んじて「決死隊」の美談で済ませてはならない。万全の安全対策が必要なことは言うまでもない。緊急事態にける危険な作業は誰がやるのか、職務命令が出せるのかなど重い課題を問いかけている。

(11・4・14)

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