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「800字文学館」 日常生活雑感

「老夫婦アレコレソレで噛み合わず」(酔雅)

西川 武彦

 後期高齢者入りを控え、言動が怪しくなってきました。気が急く、物忘れが激しい、鼻水が止まらない・・・。老妻も似たような状態です。老夫婦の会話はこんな具合に展開します。
 「アレどうした?」「何よソレ、コレ?」と、年金用の通帳を掲げる。「違う、コレじゃない、アレだ」。噛み合いません。聴力の衰えで、怒鳴りあいの喧嘩になるから厄介です。

 こんなこともあります。気が急いて、右手にお箸、左手にフォークを握って食卓に座り、はっと気がつき、老妻に分からないようにフォークを戻す。座るといえば、先日、急に便意をもよおしてトイレに飛び込んだが、蓋を開けないまま裸のお尻を乗せてしまった。冷たいので飛び上がって気がついたというお粗末です。
 何かやろうと立ち上がったはよいが、何をするのか分からないこともあります。そうなると、筆者の場合は左から右に身体を回転させる可笑しな癖があります。数年前まではそのようなことはなかったので、老化現象なのでしょう。鼻水も厄介です。知らないうちに垂れる。スーパーで買い物し、お気に入りの女性がいるレジで財布を出す。格好つけて、お釣りがないように財布を探っている時にすうっと来る。美女がじっと見つめているから哀れです。

 ところで、我が家で鼠騒動が発生しました。小さいのが一匹入り込んだのです。毎朝、糞がばら撒かれている。鼠捕りの餌や罠も効果なし。昼間、敵がとろくなっているのを狙って退治することになりました。糞の連なりを緻密に分析して居場所を探る。書籍と書類で混み合う我が書斎の隅でついに敵を発見。追い詰めたはよいが、手で掴むわけにはいきません。思いついたのが、隣りの部屋にある細長いダンボールの筒です。
 「アレでやるか」「アレってなによ、コレ?」と、箒。「違う、ソレじゃない、食堂のアレだ・・・」。散々やりあった挙句、筒が持って来られ、被せるように追い込んで退治しました。とかく噛み合わず大変なのであります。

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