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「800字文学館」 創作作品

はずんで

馬場 真寿美

 このところ、麻理は本当に運がついている。
 生まれてこの方、どんな抽選・くじといった類にも、とんと縁がなかったのに、先月出席した友達の結婚式では、もう一人の新婦の友人とともに(羨ましいことに彼女は妊婦だった)、みごと一等のペア箱根一泊旅行券を勝ち取ったし、先週は地元の商店街の抽選で、商品券三万円を獲得した。
 結婚して四年。なかなか子どもが授からなかった。夫の圭介にも協力してもらい、辛い不妊治療にも通った。もともと少女のような体型で、月のものも滞りがちな麻理には、妊娠は難しいのかもしれない。けれども、このところ続いている幸運な状態が、そんな麻理にもう一度頑張ってみようという気持ちを抱かせた。今なら妊娠することだって、何だってできそうな気がする。そう決意し、今日再び以前通っていた病院に、久し振りに予約を入れたのだ。病院まで電車で数駅である。
 軽い足どりで駅の階段を駆け上ると、ほぼ同時に電車がホームに滑り込んできた。(ほ~らね)と、麻理は心の中で呟く。

 検査を受け、待合室で座って待っていた麻理は、名前を呼ばれると、おずおずと診察室に足を踏みいれた。若い女の先生がどうぞ、と椅子を示す。
「妊娠をご希望でしたね」
「はい」今の心境を述べ、膝の上でぎゅっと拳を握る。
けれど、
「それは……、ちょっと難しいかも知れませんね」
先生は困った顔をされた。
「……」
ついさっきまで、パンパンに膨らんだボールのように弾んでいた麻理の心から、音をたてて空気が抜けていく。
すると、先生は意外なことを言い出した。
「あなたは、もう妊娠していらっしゃいますから」
「えっ!」
「ご存知ですか? 世界で一番運がついているのは、妊婦さんだという話ですよ。何せ二人分の運がついているわけですから。しかも、あなたの場合は三人分ですしね」
事情が飲み込めず、きょとんとしている麻理に向かって、
「おめでたです。双子ですよ」
そう言うと、先生はいたずらっぽく目配せをした。

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