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「800字文学館」 日常生活雑感

ナンバ歩きの犬

志村 良知

 駱駝、キリン、象といった大型の草食動物はナンバ歩きである。
 ナンバ歩きとは左右の手足を同時に動かす歩き方で、四足歩行動物の場合は片側の前後脚が同時に動き、側対歩と呼ばれる。
 かつて日本人はナンバ歩きが普通だったという説が有力で、実際徳川末期の西洋式軍事教練ではこの矯正が大変だったという。ナンバ歩きでは担え銃で歩けない。日露戦争の招集兵にもこの歩き方の者が少なくなかったという記録も残っている。現代でも甲子園の入場行進の選手の中に必ず二、三人は居る。しかし、この古いナンバ歩きが近頃では疲労しにくい歩き方として注目されているという。
 最近、側体歩で歩く犬がいると言う事に気が付いた。それも例外と言うには少なくない比率でいる。側対歩の犬はローリングが激しい上、後ろから見るとお尻が揺れるモンロー・ウオークになるのですぐ判る。
 調べてみると犬は側対歩の動物ではなく側対歩は異端となっている。ドッグショウでは、英国の牧羊犬の一犬種を例外に側対歩の犬は審査の対象にもされないとあった。
 しからば何故そんな歩き方をする犬が少なからずいるのか。側対歩の親犬の子は親と暮らすことで親の真似をする為とか、子犬時代の癖を飼い主が放置する為といった説があり、理由の一つは犬の幼児教育にあるらしい。

 ところで、使役犬の代表である盲導犬は犬種を問わず側対歩である。犬の頭と肩は逆に側体歩の方が揺れないのでオーナーと結ぶ命綱のハーネスが安定するのと、大型犬の歩く速さを遅くし、人に合わせるのに適当と云う事から訓練で側対歩に矯正するのだという。
 人工都市新横浜は広い歩道付きの整備された道路が碁盤目状に走り、人出も適度である。従ってそこは若い盲導犬の絶好の訓練場となり、トレーナーと一緒の盲導犬をよく見かける。彼らは周囲の状況把握やトレーナーの指示に時に戸惑う風情もあるが、方向を決めるとナンバ歩きで脇目もふらず、すたすたと歩いていく。

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