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「800字文学館」 体験記・紀行文

「聖なる扉」(Porta Santa)

平尾 富男

 「聖なる扉」が開かれている二〇〇〇年にイタリアに出かけた。初めてのイタリア旅行ではないが、この年のローマ訪問は昔から心に決めていた。

 新しい世紀が始まる二〇〇一年を公式にはミレニアム、正確には第三「千年紀」とするのが西欧諸国でも日本でも通例である。しかし、キリスト教圏の国々では、政府などの公式見解とは別に、西暦二〇〇〇年をキリスト生誕二〇〇〇年祭の「大聖年」として盛大に祝った。
 ローマを訪れて祈る信徒たちは、法王によって聖年の大赦と呼ばれる特別免償を与えられる。聖年は一四七五年以来二十五年ごとに行うことと定められている。切のよい二〇〇〇年は特別な聖年となるのだ。
 ローマ四大聖堂である「サン・ジョヴァンニ・イン・ラテラーノ大聖堂」、「サン・ピエトロ・イン・ヴァティカーノ大聖堂」、「サン・パオロ・フォーリ・レ・ムーラ大聖堂」、「サンタ・マリア・マッジョーレ大聖堂」のそれぞれの聖なる扉が開かれたのである。普段これらの特別な扉は閉じられたままになっている。この年を逃せば、次に開かれる二〇二五年まで待たねばならないのだ。

 私はプロテスタント系のミッション・スクールに六年間通ったが、信者にはならなかったから、聖なる扉を潜って何がしかの恩寵を期待していたわけではない。
 聖なる扉の中でも、ローマ法王が居住するヴァチカンのサン・ピエトロ寺院のものは荘厳だ。正面玄関の一番右手のこの扉から入って、「ピエタ(哀しみの聖母)」を拝めたことは、私にとって最大の恩寵といえる。
 有名なピエタは、ブロンズ製の扉を入ってすぐ右側、巨大な防弾ガラスのパネルを隔てて等身大で収まっている。死せるキリストを膝に抱くマリアは、あどけない少女のように若々しい。ミケランジェロ二十五歳の作品(一五〇〇年完成)の清楚で慈愛に満ちたマリア像は、何度見ても私を恍惚とさせる。

 あれから十年が経った。この特別な扉が次に開く十五年後にもう一度訪れたいが……。

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