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「800字文学館」 日常生活雑感

相思鳥

浜田 道雄

 丹沢山麓のわが家のあたりでは、初冬になると多くの野鳥が姿を見せる。餌を求めて、人里近くまで降りて来るからだ。わが家の餌場にも常連のスズメ、ヒヨドリに加えて、オナガ、メジロに、ホオジロ、ツグミ、ジョウビタキなど日頃見ることのない鳥たちが顔を出して、賑やかになる。

 近くの山に行けば、もっと多くの鳥たちに出会う。葉の落ちた林の中で、ヤマガラ、コガラ、そして胸の黄色が鮮やかなキビタキなどが木漏れ日を浴びて、餌を探して飛び回っている。そんなとき、藪から突然キジが飛び出して、驚かされることも稀ではない。

 そんななかでも、私が一番の楽しみにしているのは、相思鳥との出会いだ。赤いくちばし、ウグイス色の頭、くすんだ緑の背中に、あごから腹にかけての鮮やかな黄色と大層おしゃれな鳥だが、なかなかの愛嬌者でもある。原産地は中国南部で、日本には飼い鳥として入り、野生化したものという。いまでは丹沢山麓でもよく見かける。

 元が飼い鳥だけあって、相思鳥はあまり人を恐れない。山道で餌をついばむ群れに出会い、そっと立ち止まって眺めていると、ビックリするほど近くまで寄ってくることがある。ほんの三、四十センチほど先の小枝にとまって、首をかしげて、話しかけるかのように私を見たりするのだ。

 そんなとき、その姿、形が愛らしいだけに、私の方も舞い上がってしまい、「こんどは餌をもってきてやらなきゃな」と思う。また、「もっと慣れてきたら、わが家に来てくれるかもしれない」などと期待したりもする。

 わが家のヒヨドリやスズメはもういっぱしの仲間気取りで、餌やりを忘れた朝など、ガラス戸越しに、「はやく餌をちょうだいよ!」と催促する。そんな仲間に相思鳥が入ったら、わが家の庭が一段と楽しくなるだろう。

 だが、相思鳥は素振りだけで、なかなかわが家には近づいてはくれない。どうやら名前とは違って、こちら側の片思いがしばらくは続きそうである。

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