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「800字文学館」 体験記・紀行文

トルストイを訪ねて

大泉 潤

 モスクワの南約二百キロにヤースナヤポリャーナがある。トルストイが生まれ、育ち、多くの著作をあらわしたところ。バスで約四時間半揺られ、緑の草原地帯を通る。軍需都市ツーラを過ぎると、起伏のある森林地帯となる。大きな白い門の中を過ぎるとトルストイの邸である。白樺林の小径をたどると木造白壁の館がある。

 ロシアは四世紀のスラブ人移動から歴史が刻まれているが、周辺のスウェーデン、フィンランド、ポーランド他の国々と摩擦が絶えず、大陸国家として苦難の道を歩んできた。ロシアは森の国であり、夏暑いときは森に涼を求め、冬寒い時は森にこもり暖をとる。ロシア大陸の上空を通過すると、長時間森林の上を飛ぶ。道路も川も集落も姿を現さない広大さに驚かされる。

 ロシアの歴史は、貴族と農奴の対照的な姿だ。生まれながら一生が決まる。農奴は耕作、租税、軍務、使役に服し、貴族は広大な土地を世襲で保有し、豪華な生活を享受できる。トルストイはこの矛盾に目覚め、自ら耕作に精を出し、思索にふけり、その矛盾を小説に著わした。散策した白樺の小径をたどり、池のほとりにたたずみ、著作に努めた卓を目のあたりにすると、今にもその息遣いが聞こえるようだ。

 トルストイ学者は次のように要約している。世界の根源には全体的な秩序がある。人間は全体的なものの一部だから、全体的なものに従わなければならない。理性は先天的に与えられているが、それは自分の意志で補正できる。社会は一時的現象にすぎない。人間は社会でなく、普遍的絶対的なものに従わなければならない。このように行わなければ生活は乱れ堕落する。

 ロシアは豊かな王、貴族が、文学、建築、音楽、衣装など多くの遺産を残し、展示している。日本と比較すると、陸地は四十六倍、一人当たりのGNPは三分の一である。しかし成長率が高く、今後約十五年で日本を超える。高度な宇宙技術、軍需産業、豊富な天然資源を有している。領土問題を抱えているが、国境を接している隣国と親睦を深めるべきと感じた。

(写真はツーラ市のトルストイ像)

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