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「800字文学館」 体験記・紀行文

88年の生涯より(23)学会への参加

大庭 定男

「日本英学史学会に加入しませんか」
「私は学者ではなく、資格が無いでしょう」
「英語や英語圏についてのどんなことにでも興味・関心を持っておれば、それで充分」

 こんなやり取りの末、会員になったのはロンドン居住中の1980年代の末であった。当初は会報、研究報告のROM(Read only member)であったが、1995年に帰国してからは独自の調査・研究を始めた。

 1910年代、杉浦藤四郎という青年(愛知県出身)がBasil Hall Chamberlain(英人の日本学者、東大で教えた)の援助で英国留学、その時の日記が愛知教育大学図書館(岡崎市)に保管されていることを知り機会を捉えて出向き、調査した。

 ノートに、時には日本語、時には英語で書かれた日記は第一次大戦勃発直前の英庶民生活の状況を驚きの目で観察している。20歳台の彼が最も驚いて書き連ねているのは「開放された性」である。ビクトリア朝時代の謹厳な風は中流社会以上の表面だけには見られたが、ロンドンの中心レスター・スクエアーなども夜間は交合する男女であふれていることを驚きと慨嘆の目で書いている。

 彼自身は、チェンバレンの紹介でロンドンの南に下宿していた。その家には彼と同年代のオールド・ミスがおり、二人はしばしばロンドンに出て食事をし、深夜まで二宮尊徳の話をしている。

 英学史学会についで、軍事史学会に入会、私の従軍体験をインドネシア独立宣言への過程とも合わせ講演、会の紀要にも掲載された。また、日蘭学会にも入会した。

 学会参加の魅力はなんと言っても「志、趣味、興味を同じくする人々」と親しく交わり、情報交換などを通じて知的関心が高まることである。これまでに蓄積された雑多な知識経験が思わぬところで役だつことがあることにたびたび驚いている。

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