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「800字文学館」 日常生活雑感

墓石のはなし

田谷 英浩

 中国の厦門を頻繁に往復している友人がいる。
 彼のビジネスは墓石を中国に発注し、国内の小売石材店に配送する輸入業務である。
 日本人は年平均二・八回墓参りをすると言われているが、手を合わせ、頭を垂れる墓石も、この二十年くらいの間に「石」も「加工」もすべて中国に依存するようになっている。
 一昔前は国内の石材産地で採れた石が、日本の石材加工業者→問屋→山門前の小売店→顧客のルートで供されてきた。しかし現在では、すべての産業と同じように、国内の石材資源の枯渇と価格の高騰、石材加工・字彫り業者の老年化とコスト高、国民の無宗教化、なかんずく墓は要らないとする若年層の意識の変化などにより、業界は苦戦を強いられている。
 したがって大幅なコストダウンは避け難く、とうとうお墓まで中国産になってしまった。
 お墓の新設は年間三十万基と推定されているが、その内九十%が輸入品である。そしてその大多数は中国福建省厦門から出荷されている。厦門は背後に広大な岩山を擁し、かつ世界の原石が集積する経済特区の一つとして約二十年前から石材加工を開始した。現在では国際石材加工・貿易センターとして世界の五十%以上の原石を輸入するまでに至っている。厦門近郊には千社を超える石材工場が並んでいて、その様は壮観であるという。

 今回の尖閣騒動は、この分野にも影響を及ぼした。発注から三週間後には完成引渡しを要求される厳しい業界で、通常でも厦門港の船積みは火事場の様相を呈しているという。そこへ今回、税関検査対象が大幅に増加した。検査待ちコンテナが列をなし、その光景は異様なものであったらしい。
 しかし我が友人、は混乱の中で税関にもの申す以外は出来ることは何でもやってくれたビジネスパートナーに謝意を表している。中国国民は政府の公式発表とは別に黙々と作業を続けてくれたようだ。

(2010・10・12)

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