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「800字文学館」 体験記・紀行文

トルコの婚活

濱田 優(ゆたか)

 三年前、昔の会社仲間とトルコの古代遺産と景観を訪ねる旅をした。
 いつもは相棒と二人旅だが、そのときは年下の女性二人も加わった。この四人組昔に戻って年甲斐もなくはしゃぐので、他にツアー客にはよほど奇異に見えたらしく、「どういうお仲間?」と憚り声で尋ねられた。

 ところで、男と違って女はいくつになっても結婚話に興味を持つようだ。旅の途中で見聞きした嫁探し婿探しのトピックスに連れの二人はすぐ反応した。
 トルコのトルコ風呂(?)ハマムは伝統的な公衆浴場で、入浴後は控室でゆっくりくつろげる。そこは女性にとって数少ない社交の場であり、息子がいる母親には恰好の花嫁選びの場という。
 なるほど裸なら、顔もボディラインもばっちり分かると感心したが、口にしないでよかった。
 「よそのオバサンに裸をジロジロ見られるなんて嫌!」
 彼女たちは自分がオバサンであることを忘れて身震いをした。
 ちなみに、トルコ、とりわけ田舎では、嫁が家事や農業ばかりか、絨毯を織って家を支えている。嫁の働きに一家の将来が掛かっているというのだから、母親が息子の婚活に真剣になるわけだ。

 白い石灰棚と温泉で有名な世界遺産のパムッカレ(綿の城)に近い街で、バスの窓から奇妙な光景を見た。
 あちこちの家の屋根に大きなガラス瓶が載っている。ガイドの話では、結婚適齢期の娘がいて婿探しをしている、とアピールする目印だそうだ。さらに、瓶の太さで体型を表すと付言されると、同行の女性が「失礼な話」と怒るのもうなずける。ただ、その広告塔を見て結婚を申し込んでも、最終的な選択権は娘さんが握っていると聞けばホッとする。彼女の意志を来客に出すトルココーヒーに砂糖を入れるか、入れないかで示す、というから面白い。

 ひるがえって日本でも形こそ違え、家の論理が個人の幸せに優先し、ことに女性が辛い目に遭ったのはそれほど昔のことではない。
 最近はトルコでもこの風習は廃(すた)れつつあると聞く。

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