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「800字文学館」 政治・経済・社会

「ピグマリオン効果」

野瀬 隆平

 選挙が終わった。結果を受けて政局に走るのではなく、じっくりと政策論争をして欲しいと願う。それにしても、これまで驚くほど短命の内閣が続いた。自民党の末期的症状かと思ったら、民主党の最初の首相も、短期間で辞めた。政治家の質が低下したのだろうか。
 どうもそれだけではない。政治を見守るマスコミや国民一般の視点、論調も大きく関係している。政策の本質的な問題ではなく、個人的な欠点をあげつらい、面白おかしく批評する。こんな首相、内閣ではだめだと皆が騒げば、国民全体がそう思うようになり、批判される者も落ち込んで、実力以下の能力しか発揮できない状況となる。
 教育の場でこんな実験がある。教師に、この子達は出来の悪い子だけれども、何とか指導してくれと頼む。教師はあまり指導に力が入らず、生徒の方も期待されていないことを感じ取って勉強に身が入らない。その結果、実際には同じ能力を持つ他の集団と比べ、成績が良くならないというものだ。これをゴーレム効果と呼んでいる。ゴーレムとは、ユダヤの伝説に出てくる、意思のない泥人形の名前からきている。
 一方、逆の実験もある。教師に、生徒たちは選ばれた者であるから、更に成績を良くするように指導して欲しいと頼むと、教師はその気になって教え、生徒たちも自分達は期待されていると思って頑張り、他の集団より成績が向上する。これをピグマリオン効果という。
 昔、キプロスの王、ピグマリオンは自分の理想とする女性が見つからず、象牙で望みの女性像を彫った。熱心に造っている間に、彼はその像に恋するようになり、神様がその像に命を吹き込んだという話に由来している。
 「マイ・フェア・レディー」の原作は、バーナード・ショーの「ピグマリオン」であり、これが効果の命名の根拠だとも言われている。
 国のトップを生徒のように扱わねばならぬとは少々情けないが、我々も一緒になって国を良くする積もりで、考え見守るしかない。

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